被害額55億円 地面師に騙された「積水ハウス」が“五反田の土地”に飛びついた事情
住宅メーカーのお家芸
これには積水の事情も関係があって、幹部によると、
「長年ウチは戸建てで食ってきたわけですが、マンションにも注力しようということで、東京にもマンション事業部ができました。当時は社長で今は会長になっている阿部(俊則)のために“柱を作らなければ”という一派は、マンション分譲に前のめりになっていた。そんな折も折ですよ、五反田の土地の話が来たのは。あそこを買ってマンションを建てられたら、いわゆる橋頭堡を築ける。そう考えても不思議じゃないよね。実際、阿部自らあの土地を去年の4月18日に視察して、“良い土地だから進めてくれ”と言っていました」
海喜館の抗いがたい引力――。その2日後に阿部社長は稟議を決裁し、担当チームは成りすまし女の羽毛田容疑者と初めて接触。24日には売買契約を締結し、14億円の手付金を支払って仮登記申請を行なった。この席には羽毛田容疑者や仲介役、司法書士らが同席したが、本人確認をしっかりやった形跡はない。
翌5月、本取引に関して「本人」側から注意を喚起する内容証明郵便が積水に複数届いたり、積水子会社からも通報があった。しかし、「取引妨害」などとして積水首脳は一顧だにしなかったようで、6月1日、残りの代金49億円を支払う。その大半は成りすまし女に対し、預金小切手を交付するという形を採っている。そして9日、法務局から登記申請却下の通知が来てやんぬるかな。積水が警視庁に被告訴人不詳で刑事告訴したのは9月5日のことだった。
今年に入り、当事件の責任を擦(なす)り付け合った結果、トップとして20年君臨した会長は解任、阿部社長がその後を襲った。住宅メーカーにお家騒動とは皮肉な話だが、揉め事は日常茶飯事というから積水にとってはお家芸なのだろう。
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