小泉元首相も感動した! 「悪魔と呼ばれたヴァイオリニスト」の驚くべき生涯

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19世紀の「悪魔ブーム」に便乗

 パガニーニの人気を作ったもう一つの理由、それは「マーケティング」である。

 舞台に上がる時、パガニーニはいつも黒ずくめの服装をしていた。生来病気がちで身体が細く、異常に肩幅が広い。身体はものすごく柔軟で、手も大きかった。髪は長く、肩に掛かっている。
 どこかしら禍々しいものを感じさせる風貌で繰り出される人間業とは思えない超絶的な音色。確かに「悪魔」と形容されるのもむべなるかな、である。
 実は、パガニーニが活躍した19世紀の前半、欧州は「悪魔ブーム」に沸いていた。そしてこの「悪魔」イメージを、パガニーニは積極的に利用した。

 そのうえパガニーニは、「守銭奴・女好き・涜神者」。西欧社会を支配していたキリスト教的な価値観とは真逆のイメージの男だった。その生涯は数々の恋愛スキャンダルに彩られているし、晩年には「カジノ・パガニーニ」なるものまで構想されたほど俗っぽいエピソードに事欠かない。
 教会との関係も悪く、臨終に際して神に許しを請う「終油の秘跡」を拒否したとされるパガニーニは、カトリック教会から埋葬を拒否され、遺体となってからも欧州をさまよい歩く羽目になった。放置されたパガニーニの遺体は夜な夜なヴァイオリンを奏でている、などといった一種の幽霊伝説も生まれた。
 まさに「悪魔」の名に相応しいアンチヒーローだったのだ。

小泉流パガニーニ論

 さて、話は戻って、冒頭の割烹の場面である。

 酒も入って興の乗ってきた小泉氏。熱が入ると手振りが出てくるのは現役時代と一緒であるが、思ったことをストレートに口に出す率直さも変わっていない。

「私が現代のヴァイオリニストに望みたいのは作曲・編曲だ。パガニーニは聴衆の好みに合わせていろんな曲を作って楽しませたじゃないか」

「リストのラ・カンパネラもパガニーニのヴァイオリン曲の変奏だ。いろんな作曲家がパガニーニの曲を変奏している。でも、今のヴァイオリニストは楽譜通りに演奏するばかりで、そこが物足りないんだよ」

「パガニーニが女好きだったってのは、分かるよね。あのメロディの甘さ。音楽に出てるよね」

 浦久氏は著者の中で、時に超絶技巧をひけらかしていると言われるパガニーニに、イタリアの伝統的な歌唱法「ベルカント」(「美しき歌」の意)の精神が息づいていた、と指摘しているが、小泉氏が感じ取っていたのもそれである。「プレスリーも絶叫系の曲よりバラードが好き」「(総選挙の際に自民党のCMに使った)X JAPANのForever Loveもいい」という小泉氏の好みは非常にはっきりしている。

「練習しなければならないプロのヴァイオリニストよりも、絶対にヴァイオリン曲は聞き込んでいる」と自負する小泉氏は、音楽のプロである浦久氏も瞠目するほどの専門的な知識と知見を披露した。

「パガニーニを超絶技巧ではなくメロディで評価しているところなど、小泉さんが並みの聴き手ではないことがよく分かりました。本当に音楽がお好きなんですね。こんなに音楽がお好きな方に本を読んで貰えて著者冥利に尽きます」(浦久氏)

デイリー新潮編集部

2018年10月29日掲載

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