小泉元首相も感動した! 「悪魔と呼ばれたヴァイオリニスト」の驚くべき生涯

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 10月某日、割烹「赤坂津やま」の個室に、小泉純一郎元首相の姿があった。政治家の会合によく使われることでも知られる同店は小泉氏の行きつけであるが、この日小泉氏が迎えた賓客はシンジロウでもヤマタクでもない。彼が読んで「感動した!」という本を書いた、音楽プロデューサーだった。

「自分が招いた場合は早めに来て客を待つ」という小泉氏は、その音楽プロデューサー、浦久俊彦氏が到着すると、さっそく本に描かれたある音楽家について熱弁を振るい始めた。

「”彼”のヴァイオリン協奏曲で、演奏されるのって1番か2番ばかりだろ。でも、本当は6番まである。これが全部いいんだ。なんで他の曲は演奏されないのか」

「ヴァイオリン協奏曲でいいのは、第2楽章のアダージョ。メロディが本当に美しい。アダージョだけでアルバムをつくってもいいくらいだ」

 挨拶もそこそこに、中高生時代にヴァイオリンを習い、音楽に情熱を傾けてきた元総理ならではの意見が怒濤のように繰り出されていく。

 小泉氏がその音楽に感動した”彼”とは、果たして……。

空前絶後のヴァイオリニスト

 そのミュージシャンの名前はニコロ・パガニーニ(1782~1840)。史上最高にして空前絶後のコンサート・ヴァイオリニストだ。
 そして、小泉氏が「感動した!」という本は、浦久氏の『悪魔と呼ばれたヴァイオリニスト パガニーニ伝』。パガニーニの生涯を描いた本邦初の伝記である。

 同書によると、生前の彼の人気はものすごいものがあった。

 当時、ヨーロッパを支配していたナポレオンの妹2人が、パガニーニを奪い合った。姉エリザの宮廷で雇われていたパガニーニを、妹のポーリーヌが自分の嫁ぎ先であるボルゲーゼ家の所領に連れ込んだのだ。
 ウィーンでの初公演の際には、コンサートチケットの代金が5グルデンであったため、5グルデン紙幣が「パガニーナー」と呼ばれるほどに人気が沸騰した。パガニーニの名を冠したハンカチやネクタイ、たばこケースなどが売られるようになり、カフェにはヴァイオリン型のケーキも登場。イギリス滞在時には邦貨換算で80億円相当(!)を1年間のコンサートツアーで稼ぎ出した、とも言われる。

 パガニーニはなぜ、ここまでの度外れた人気を獲得したのだろうか。

 理由の1つは、彼の圧倒的な技量である。
 クラシックファンには周知のことだが、パガニーニと言えば「超絶技巧」がトレードマーク。彼が作曲したヴァイオリン協奏曲を聴けば、弾きこなすのに相当なテクニックが必要であることは、クラシックの門外漢であってもわかるだろう。この超絶技巧に大衆は熱狂したのだ。

 それだけではない。パガニーニは時に、曲芸じみた演奏をすることをためらわなかった。ナポレオンの妹エリザが大公妃だったルッカ公国で宮廷楽士をつとめていた時、パガニーニは「2本の弦によるデュエット」という曲をつくり、演奏している。

 さらに、大公妃に「弦2本でこれだけ見事な演奏ができるのなら、1本の弦でも演奏は可能か」と聞かれたパガニーニは、本当に弦1本の曲を作って演奏してみせたのだ。これが後に「ナポレオン・ソナタ」と呼ばれる、独奏ヴァイオリン(G線のみ)とオーケストラのための作品である。

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