「記者殺害」で「サウジ石油相」が「ロシア」に語った中身

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 引き続き「ハーショクジー(日本語ではカショギとの発音表記多し)事件」が石油市場に与える影響に関するニュースである。

 2018年10月22日の午後2時ごろ、ロシアの国営通信である『タス通信』がサウジアラビア(以下サウジ)のハーリド・アル・ファーリハ・エネルギー相とのインタビュー記事を掲載していた。「Saudi energy minister Al-Falih speaks to TASS on OPEC+, oil prices and Khashoggi」と題したものである。

 話題はきわめて広範にわたっているが、ストレートな、的を射た質問がなされており、ファーリハ大臣も真摯に、率直に応えている。非常に面白く、読み応えがある。

 だが、あまりに長いので、どうやって読者の皆さんに紹介しようか迷っていたら、『フィナンシャル・タイムズ』(FT)のDavid Sheppardが「ハーショクジー事件」に絞った記事を同日の午後4時ごろ掲載していた。

 そこで、『タス通信』の記事の中から、FTが書いていないポイントをいくつか列挙し、その上でFTの記事の要点を紹介しておこう。

『タス通信』の記事の中で興味深いのは、次の諸点である。

 まず「OPEC+」と表現している、OPEC(石油輸出国機構)とロシアを代表とする非OPEC産油国との協調関係の恒久化についてである。

 ファーリハ大臣は、サウジとロシアが主導権を発揮し、石油市場を安定的に運営するために、いつでも、必要なときに、効果のある増産・減産ができる仕組みにしたい、として、12月の次回会合(OPEC総会およびその後の協調減産参加国の会合)で何らかの合意を得たい、としている。現在の「協調減産」は、年末で期限切れとなる。また、今はOPEC事務局が実務を担当しているが、OPEC+としての恒久的事務局を創設したい、とも。

 次に、余剰生産能力については、サウジが130万BD(バレル/日量)、UAE(アラブ首長国連邦)が20万BDだとし、他の国は分からないが、生産能力を拡大している国としてカザフスタン、ブラジルと米国のシェールを挙げている。そして、FT記事でも触れているが、余剰生産能力を拡大するのに、100万BDあたり200~300億ドルの投資が必要なのだ、と強調している。

 さらに、「サウジアラムコ」の上場延期問題については、これまでの「公式説明」に終始している。すなわち「サウジアラムコ」を強靭化するために、下流部門(石油業界では、探鉱開発を上流部門と言い、精製販売=石油化学を含む=を下流部門と呼ぶ)の拡充が必須で、とくに今後旺盛な需要が期待される石油化学を主軸とする「SABIC(サウジ基礎産業公社)」の合併は重要なのだ、と。

 また、ロシアへの進出については、「ヤマルLNGプロジェクト」に次ぐ「Arctic LNG」へ主要株主として参加したい、サウジ側の意思決定は済んでいる、とまで言い切っているのが注目された。

 さて、FTの記事であるが、ハーショクジー事件が石油市場に与える影響について記載した本欄「『サウジ記者殺害』で危惧される『原油価格』動向の『世界最大油田会社トップ』見通し」(2018年10月22日)の中で、筆者は次のように予測しておいた。

「一部には、米国の『制裁』(するかしないかを含め、未だ内容は未確定)にサウジが反発し、『石油を武器とする政策』(原油減産、米国への禁輸など)を採用することにより、1970年代の『オイルショック』に似た大混乱が起こるという見方もあるが、おそらくそうはならないだろう。

 筆者がそう判断する理由は次のとおりだ。(以下、略)」

 ファーリハ大臣は、『タス通信』とのインタビューにおいて、筆者のこの見方を裏付けた発言をしている。

 もちろん、「衝動的な」ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子が、垣根を乗り越えて「政治介入」してくる可能性を完全には否定できないが、おそらく「最悪のシナリオ」は避けられるのではなかろうか。

 では、「Saudis have ‘no intention’ of using oil as leverage in Khashoggi case」と題したFT記事の要点を次のとおり紹介しておこう。ちなみにサブタイトルは「Energy minister says crude production is ‘isolated’ from politics」となっている。

「世界がサウジを支持することが非常に重要だ」

■サウジのエネルギー相は、1100万BD近くまで増産することになるだろう、と語り、ジャーナリスト、ジャマール・ハーショクジー氏の死去をめぐり、国際的な政治圧力を受けていることに対抗して、世界最大の原油輸出国としての立場を使う「意図はない」ことを示した。

■ファーリハ大臣は、ロシアの国営通信社『タス通信』とのインタビューで、「サウジは責任ある行動を取る国であり、長いあいだ石油政策を責任ある経済上の道具(tool)として使用しており、政治(politics)からは切り離している」と語った。「だから、トルコにおけるサウジ国籍の人の問題を含め、世界が政治危機に賢明に対応することを期待しようではないか。そして、我々は政治および経済の最前線で賢明に対応するのだ」と。

■大臣のこのコメントは、今月初めに米国を本拠とするサウジ国民が、在トルコ・イスタンブールのサウジ総領事館内で殺害されたことをサウジが認めたことにより、制裁を受けた場合、(報復措置として)減産するのではないだろうかという、市場における恐れ(fear)に対してなされたものだ。8日前に、世界経済に占めるサウジの重要性について語ったサウジ高官の発言は、石油供給に対する紛れもない脅し(thinly veiled threat)だと広く解釈されており、1970年代の石油禁輸の記憶を呼び起こしていた。しかしながら、「ヨム・キプール(贖罪の日)戦争」(第4次中東戦争)において、イスラエルを支持した西側諸国に対して、1973年にアラブ諸国が行った禁輸にサウジが参加したときの、いわゆる武器としての石油をふたたび使用するのだろうか、と直接聞かれ、ファーリハ大臣は「その意図はない」と答えた。

■ファーリハ大臣は、しかしながら、米国がイランに対する制裁を再導入するのに先立ち、この4年間で最高値の86ドル近くまで上昇している石油市場を落ち着かせるために、増産をしているサウジの努力は「評価され、支持されるべきだ」と警告した。一方で大臣は、余剰生産能力が減少しているので、もしより多くの生産カットがなされた場合、100ドルに急上昇するのを止めるということをサウジは保証できない、とも語った。

■ファーリハ大臣は、サウジはこの春からすでに1070万BDまで70万BD以上も増産しており、さらに増産し続けるつもりだ、と語った。だが、世界全体の余剰生産能力は需要の2%以下の約150万BDにまで減少している。

■「サウジは着実に増産し、近い将来、1100万BDにまで増加するだろう、ということを強調することは重要なことだ」と述べた。「もし必要なら、1200万BDまで増産することは可能だ、と言うことはできる。これは保証できる。だが、300万BDの供給が失われたら、我々はカバーすることはできない。だから、石油の埋蔵量を使わなければならないだろう(筆者注:1200万BDで余剰生産能力は喪失し、それ以上増やすためには新たな投資、開発が必要、ということか?)。だが、世界がサウジを支持することが非常に重要だ。なぜなら、サウジだけが余剰生産能力を維持するために巨額の投資を続けているからだ」と。

■ファーリハ大臣は、サウジの生産能力を1300万BDにまで引き上げたいと思っているが、そのためには200~300億ドルの投資が必要になる、と語った。

■サウジとロシアは、価格を抑えて欲しいというドナルド・トランプ米大統領の要求に応えることも一因として、増産してきている。ハーショクジー氏の死去をめぐって、西側諸国の首脳たちが本件に関するサウジの説明に疑いを持っている中、米国とサウジの緊張関係は高まっている。(岩瀬 昇)

岩瀬昇
1948年、埼玉県生まれ。エネルギーアナリスト。浦和高校、東京大学法学部卒業。71年三井物産入社、2002年三井石油開発に出向、10年常務執行役員、12年顧問。三井物産入社以来、香港、台北、2度のロンドン、ニューヨーク、テヘラン、バンコクの延べ21年間にわたる海外勤務を含め、一貫してエネルギー関連業務に従事。14年6月に三井石油開発退職後は、新興国・エネルギー関連の勉強会「金曜懇話会」代表世話人として、後進の育成、講演・執筆活動を続けている。著書に『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?  エネルギー情報学入門』(文春新書) 、『日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか』 (同)、『原油暴落の謎を解く』(同)、最新刊に『超エネルギー地政学 アメリカ・ロシア・中東編』(エネルギーフォーラム)がある。

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