小泉進次郎「化けの皮」が剥がれた?(新田哲史)
自民党総裁選を境に、小泉進次郎氏への風当たりが強まりつつある。投票日当日になって石破茂氏への投票を明らかにしたものの、その消極的な関わり方が安倍陣営への配慮も感じさせ、「どっちつかず」の立ち回りが宰相候補である彼の政治家としての本質を問いかけているからだ。
投票後の記者会見で「いろんな情報戦があった」と振り返ったが、そこでいう「情報」とは党内の水面下のものだけでなく、党外世論も含まれたのは間違いない。それでも自身への批判が想定内のレベルであれば、投票まで沈黙を続けたかもしれない。
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総裁選で沈黙のはずが橋下氏参戦で一変
ところが投票前日に事態が一変した。橋下徹氏による「総裁選で見えた進次郎氏の真贋」と題した論考がプレジデントオンラインに掲載されたのだ。
橋下氏は、小泉氏の沈黙のウラに、敗戦が決定的な石破氏に加担することも、勝ち馬の安倍陣営に乗っかって国民の自身への支持が落ちることも、共に回避しなければいけない事情があると看破。選挙で勝つために人気も重要だとした上で、今後、日本の政治の枢要に位置していく小泉氏に対し、「究極の場面での決断力と、その説明力」が求められると、まさに痛いところを突いてきた。
政界引退後も、小泉氏と同等に知名度があり、発信力を維持する橋下氏。沈黙を続ければ、橋下氏に同調した「アンチ小泉」の意見が広がる可能性は高い。マスコミ不信から近年、新聞を読むのが減ったという小泉氏。あくまで仮定だが、本人や周辺が新聞の代わりにネットでその記事をみていれば橋下氏の“参戦”は「面倒になった」と思ったはずだ。
小泉氏は翌朝になって石破支持を投票前に表明。しかし石破陣営からは「もっと早く表明してくれていたら党員票の結果は違ったはず」と恨み節が飛んだとされる。あるいは逆に“論功行賞”で今後重職を得たとしたら、安倍首相に忠誠を尽くした議員たちからも妬みを買いかねない、まさに「中途半端」な事態に陥った。
橋下氏は総裁選後も小泉批判をやめず、とうとうテレビ出演で「まったく意味不明」と言い切るまでになった。
橋下氏とは逆に、小泉氏の苦しい立場を擁護する声はある。私が編集長をつとめる言論サイト「アゴラ」でも、元自民党衆議院議員の早川忠孝氏は「まだまだ未熟な小泉進次郎氏が安倍総理と全面対決して玉砕でもしてしまうと、折角の人材の将来への芽が潰されてしまうかも知れない」との見解を示す。
また、官房長官などを歴任した故与謝野馨氏のおい、与謝野信氏は、メディア環境の変化でポピュリズムが跋扈しやすい潮流を指摘した上で、「小泉進次郎氏が誰を支援することを明言しないことにより選挙へのポピュリズムの影響を低下させたことは非常に意味のある行動だった」と、事実上の不参戦を好意的に受け止めた。
役者ぶりの陰に演出家あり
自民党内の論理や文化を知り尽くす早川氏、与謝野氏が述べるように、目先の権力闘争をサバイバルする上では、小泉氏の“政界遊泳術”は「正しい」といえる。
しかし、橋下氏も「ボクらと違って世の中を動かしていくだけのポジション、力がある」と指摘するように、小泉氏は特別な存在だ。未来の総理総裁にふさわしい決断力や説明力があるのか、試金石の一つだったということを考えれば、ここ最近の立ち回りは、政治家としての信念より、彼の内側に秘める政治的保身を優先した「小賢しさ」のほうがいささか目立ってしまっている。
マスコミの世論調査では「次の総理にふさわしい人」でトップになることもしばしば。まだ副大臣すら経験したことがない37歳の青年を、安倍首相らと同格の選択肢に並べるマスコミの不見識も問題だが、本人や周囲のイメージづくりが奏功しすぎて内実が伴っているのか不安は募る。
というのも、あまり世間で知られていないが、小泉氏の周辺には、広告やPRの有能なスペシャリストの存在がちらついているからだ。
数年前、「アゴラ」に彼のブログを掲載できないか小泉事務所に申し込んで、あっさり断られたことがある。そのとき窓口となった公設秘書が、広告業界では知る人ぞ知る存在の女性マーケッターS氏だったことに驚いてしまった。S氏は米国の代理店などで勤務経験があり、ツイッターでも1万人を超えるフォロワーがいるデジタルマーケティングのプロ。私も小泉事務所の秘書とは知らずにたまたまフォローしていたのだ。
そしてS氏が出産を機に事務所を退社すると、その後任となったH氏は「大物」だ。三菱商事で消費者向けマーケティングを担当。出向先の大手コンビニチェーンではクレジット・ポイント事業を立ち上げ、次に出向した外食ファストフードチェーンではデジタルマーケティングの責任者を務めた。H氏と仕事をしたことがある旧知の広告業界関係者は「優秀だった」とその手腕に一目置く。実際、数年前には、デジタルマーケティングの世界的カンファレンスに登壇するなど広告業界でも知られた存在だ。
橋下氏が近著『政権奪取論』(朝日新書)で、マーケティングで民意をつかむ重要性を力説しているように、日本の政治家で、既存の選挙スタイルを超越し、デジタルを含め、企業が使っている科学的なPR手法を貪欲に取り入れているケースはまだ少ない。党本部レベルならともかく、2代続けて公設秘書にマーケティングのプロ、それもH氏のようなキャリアの持ち主を、個人事務所で採用するというのは、それだけ小泉氏がマーケティング戦略を重視しているとみていいだろう。
このほか秘書以外のブレーンとして、小泉氏ら若手議員が「こども保険」を提案した「2020年以降の経済財政構想小委員会」(通称・小泉小委員会)でメディアアドバイザーを務めた元博報堂のクリエイター高木新平氏らもいる。
高木氏は若干31歳だが、数年前に会社を立ち上げ早々に、DeNAの自動運転プロジェクトやフィンテック企業、卓球日本代表など名だたる案件のクリエイティブディレクションを担当。若手政治家のデジタルや広報アドバイスにも積極的だ。小泉小委員会が、ライフスタイルの多様化した現代の社会保障のあり方を問題提起したときに打ち出したキャッチコピー「レールからの解放」を提案したのも高木氏だ。親しい友人たちには、小泉氏が総理になったときのスピーチライターへの意欲も示している。
もちろん、小泉氏本人が「役者」として天賦の才があり、父親譲りの話術を努力して磨き上げてきたことが人気のベースにある。プレゼンテーションやメディアの専門家が、小泉氏の名前を入れたタイトルで話術のハウツー本を何冊も出しているくらいだから、大したものだ。
しかし、名作映画を語るとき、役者の魅力を最大限に引き出し、効果的に演出する監督などの「黒子」の存在を抜きにしては本質が見えてこない。
前述のS氏やH氏がどこまでリサーチしているかは窺い知れないし、別の黒子がいるかもしれないが、マーケティングのプロなら報道の論調分析や世論観測はお手の物だ。総裁選直後には、フジテレビのスクープとして、小泉氏が早い段階での石破氏支持表明を「一時検討していたことがわかった」とする記事が流れたが、これも橋下氏の批判を機に石破氏への支持がうわべだけだったと見られつつあったことを打ち消す意図を込めたリークにも見えた。
もしかしたら私の想像するストーリーが出来すぎで、小泉氏やH氏に笑われてしまうかもしれないが、そうした情報戦への強さも感じさせてしまうほど、本人のセンスやブレーンの隠然たる存在感がものをいっている。
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