NHK「原爆番組」は放送法違反だ

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原爆投下はアピールのため

 また、同番組はシラードに多くを語らせているのに、彼の次のような重要証言は紹介しない。

「バーンズ(国務長官・トルーマンの側近)は戦後のロシア(ママ)の振る舞いについて懸念していた。ロシア軍はルーマニアとハンガリーに入り込んでいて、これらの国々から撤退するよう説得するのは難しいと彼は思っていた。そして、アメリカの軍事力を印象づければ、そして原爆の威力を見せつければ、扱いやすくなると思っていた」

 これはシラードが当時暫定委員会に大統領代理として加わっていたジェイムズ・バーンズと1945年5月28日に会見したときに得た証言である。

 この証言は、なぜアメリカ側が日本にとって最も不当な大量殺戮兵器としての使用を選んだのかについての説明になっている。つまり、そうすることが、ルーマニアやハンガリーなど東ヨーロッパ地域に勢力拡大を図るソ連に対する軍事的威嚇になるからだ。

 シラードのこの証言は、研究者の間では常識となっている。「アメリカはソ連のヨーロッパでの勢力拡大を抑止するために原爆を使った」という主張の根拠としてよく使われているのだ。要はアメリカが軍事力をアピールするために、広島、長崎の市民の命を奪ったということである。

アメリカの変化

 実のところ、長年、原爆投下を正当化してきたアメリカ国内においても世論は変化しつつある。その一つのきっかけは、ABCテレビが1995年に放送した「ヒロシマ・なぜ原爆は投下されたのか」という番組だ。この番組では「原爆投下か本土上陸作戦しか選択肢はなかったというのは歴史的事実ではない。他に皇室維持条項つきの降服勧告(のちにこの条項が削除されてポツダム宣言となる)を出すなどの選択肢もあった。従って、原爆投下という選択はしっかりとした根拠に基づいて決断されたものとはいえない」という結論を示している。

 これは「原爆投下によってアメリカ軍兵士は救われた」というアメリカ国内の「常識」に真っ向から挑む内容だ。この「常識」に挑むことは、スポンサー企業への大規模な不買運動を覚悟しなければならないため、一種のタブーだった。 

 民間放送であるABCは、それでもなお事実を追求し、自国の不名誉にもなる番組を放送した。そして驚くべきことに、放送界でもっとも権威あるピーボディ賞を受けている。こうした番組の功績もあり、「原爆投下は正当だった」と答えるアメリカ人は、かつては8割以上いたが、最近は5割強にまで落ちている。

 当のアメリカですら、フェアに多角的に事実を見つめようとしているのに、日本の公共放送が「原爆投下は正当だった」という歴史観を前提にした番組を作り続けている。事実を知らないのならば怠慢であるし、知ってのことならば何に忖度をしているのか、と言いたくなるところだ。そして、これが「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」(放送法第4条)を怠っているのは明らかではないだろうか。

デイリー新潮編集部

2018年10月22日掲載

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