老害とスポーツ界(中川淳一郎)

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 昨年秋からスポーツ界の不祥事が相次いでいますね。「大相撲日馬富士暴行事件」「レスリングパワハラ騒動」「日大アメフト部悪質タックル騒動」「ボクシング連盟会長過剰接待騒動」「体操パワハラ騒動」などがザッと挙げられます。こうした件が報じられると、番組コメンテーターや、各種スポーツ関連の協会とは一線を画している元選手らが批判の声を上げますが、基本的な論調は「幹部連中は老害だらけで古い体質がはびこっている」とした上で、「膿を出し切らなくてはいけない」となります。

 正直、私のように体育会とは無関係の人生を送ってきた人間からすれば、体育会的な理不尽さはまったく理解できませんし、「競技で実績を挙げた人間が関連組織で出世する」という慣例は意味不明に思えます。相撲協会でエラくなる人だって横綱経験者ばかりなわけだし、その他の各スポーツ組織でも五輪のメダリストが重鎮になっている。

「名選手は必ずしも名指導者にはならない」はプロ野球やプロサッカーの世界でも当たり前なのに、スポーツ界の多くではこの定説は通用せず、現役時代の実績が相変わらず幅を利かせる状況になっています。というか、競技成績の向上を徹底的に追究し、頑張り続けてきた人が、ビジネスも含めたいわゆる「運営」や「対外折衝」、「自分を崇める人以外との交渉」ができるものなんですかね。

 名選手達は、引退したら組織運営をするのが当たり前という空気をひしひしと感じてきたのでしょう。一方、関連団体の中枢からは一定の距離を置き、別の道を歩んだ元選手達は明確に旧来型の「根性論」を否定する。こうした方々は関連団体から冷遇されているからこそ、ビシッと本質を突く発言をすることができる。

 日曜朝の人気番組「サンデーモーニング」(TBS系)で、ハリーこと張本勲氏が現役アスリートに対し「ケガをするのは走り込みが足りないんだよ!」と言い放つと、ネット上では「老害乙(お疲れ様、の意)」などと叩かれますが、ハリー同様「エースは完投してナンボだ! 球数制限100球って何なの?」式の主張をする方々のスポーツ教育論は昨今「老害」扱いをされるものです。

 張本氏は監督経験はないものの、プロ野球界では一定の尊敬を集める人物です。大谷翔平が「二刀流」で2018年シーズン前半に一定の成果を挙げていた頃、「アメリカの選手のレベルが下がった」と張本氏が同番組で言いました。それに対して、決してプロ野球界のメインストリームにいる人物ではない岡島秀樹氏は明確にメジャーのレベルが下がっていないことを指摘し、この時ネットでは拍手喝采でした。

 今は全般的に「老害が今のスポーツを昭和的な根性論で語るんじゃねーよ!」という風潮が存在するのですが、「今の若いトップアスリートが20年後に“近頃の選手は甘っちょろい!”と根性論を語り始めたら……」とも考えます。

 今の時代、1970〜80年代的根性論を肯定するとネットで叩かれますが、2018年のトップ選手が将来、張本氏的なことを言いだすとしたら、その時代のスポーツは相当進化しているんだろうな、と楽しみになります。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんしゅうきつこ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2018年10月18日号掲載

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