今夏、女優たちの笑いと涙(TVふうーん録)

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 わぁ。もう9月が終わっちゃう(※掲載は9月27日発売号)。夏ドラマ、個人的には案外多岐にわたって楽しんだことを報告しておこう。ネタとして昇華できず原稿に書けなかったが、泣いたり笑ったり白目剥いたりしてたなぁ。特に女優陣に感謝したいので、今夏の超・私的「主演&助演女優賞」を記しておこう。実は夏休みのため、この原稿はめちゃ前倒しで書いている。物語の筋と無縁の内容にしたいがための、苦肉の策だ。

 主演女優賞は若手3人。そう、ひとりじゃないの、複数なの。「透明なゆりかご」(NHK)の清原果耶(かや)、「恋のツキ」(テレ東)の徳永えり、「探偵が早すぎる」の広瀬アリスだ。清原については既に原稿を書いた通り、「純粋な戸惑いと気づきをありがとう」と伝えたい。徳永えりは、男子高校生との性愛に目覚め、身悶えつつ、自分を責め、腐れ縁の彼氏との惰性的な付き合いを考え直す31歳の女という難役だ。アラサーの揺れる思いを切実に表現し、絶妙に生々しかった。

 で、広瀬。運動神経がよさそうなので「暑苦しくない土屋太鳳」的イメージしか持っていなかったのだが、今回の役でコメディ筋肉もしかと確認できた。すごいよ、その顔芸。丁々発止の間合いといい、顔芸と間合いでは仙人クラスの滝藤賢一と、対等にやりあっとる。美人姉妹に課せられる「比較地獄」を一気に乗り越えたね。「玉川区役所OF THE DEAD」でゾンビを竹刀で襲うジャージ姿の頃が懐かしい。共演したロッテンマイヤー風の水野美紀と顔が似ていることも含めて、期待大だ。アリスが美しきコメディエンヌとして君臨する日もそう遠くない。

 次、助演女優賞。名作映画の実写版でいろいろとイチャモンもついちゃって、どうにもこうにもパッとしなかった「この世界の片隅に」に登場した、伊藤沙莉(さいり)と尾野真千子をあげたい。

 いや、いいドラマだよ。間違いなくいいドラマだけど、名作アニメ映画の最大の特長である「ふんわり感」が、実写になると失われる。仕方ない。比べてはいかん。

 ドラマにすると、ふんわり感は逆に障害となる。やはりドラマは感情の交差点となるべきで、ふんわり感をゴリ押しされると、物足りなく映ってしまうのだ。

 そこで、えげつなさを投入してくれたのが、伊藤と尾野である。もともと私が大好きな女優なので、贔屓(ひいき)目もおおいにある。それにしたってこのふたりの毒っ気と、笑いを誘う瞬間芸と、自由自在に涙を操り、観る者の涙腺を刺激する技量には、目を見張るものがある。「原作や映画と違う!」と、怒る人もいるかもしれないが、私はこのふたりが出ているからこそ、観続けたよ。

 姪っ子を死なせてしまい、自分も利き腕を失った主人公・松本穂香を励ます伊藤の、直球の優しさは本当に温かかった。娘を失った悲しみの計り知れない大きさを恨み節と嗚咽(おえつ)と号泣と諦観によって、時の経過を演じ分けた尾野は、もはや人間国宝級。一緒に泣いたよ。

 有無を言わさず、とにかく感じさせてくれる女優はそう多くない。この夏、多くの笑いと涙をありがとう。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2018年10月4日号掲載

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