アルツハイマー型認知症は「脳の糖尿病」だった 治療の最前線

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“最善の治療薬”

 鬼頭氏が話を続ける。

「糖尿病になると、インスリン分解酵素の活性が低下します。インスリン分解酵素はインスリンだけではなく、アミロイドβも分解する。が、高インスリン血症の状態では、インスリン分解酵素は、インスリン分解のために大量に消費されるので、アミロイドβの分解が出来なくなる。これがアルツハイマー病の発症に拍車をかけるのです」

 目下、鬼頭氏が“最善のアルツハイマー治療薬”と考えているのは、

「経鼻インスリン吸入薬。鼻から吸入すると、鼻静脈叢、嗅皮質を介して脳内にインスリンを効率良く取り込める。アメリカでは、経鼻インスリン吸入薬はすでにアルツハイマーの治療薬として発売されています」

 ちなみに、経鼻インスリン吸入薬の日本での使用は認められていない。

 脳とインスリンを巡る最新の研究は他にもあり、東北大学脳科学センター教授の福永浩司氏は、

「私たちは、11年に認可されたアルツハイマー治療薬のメマンチンが、脳インスリンシグナルを改善することを発見しました」

 と、語る。

「メマンチンには、インスリンを増やす糖尿病治療薬と同じ作用があり、それが脳に働いてアルツハイマーが改善していたことが分かったのです。この研究により、アルツハイマーが脳の糖尿病であるという説が実証されました」

 実際、メマンチンを投与したマウスの実験では、アルツハイマーと糖尿病の両方が改善したという。

「今ある糖尿病の薬も、アルツハイマーに生かせないかどうかを今後見ていくべきです。脳に選択的に行く糖尿病の薬を誰かが作り、糖尿病ではないアルツハイマーの患者さんに投与して症状の改善が見られれば大きな業績になる」(同)

 先の中別府氏も言う。

「私たちが福岡県の久山町で亡くなった88人の脳の遺伝子発現を調査したところ、アルツハイマーの患者の脳では、脳内のインスリンに関わる遺伝子の発現が低下していました。人だけではなく、アルツハイマー型のマウスを作って検証したところ、やはり同様にインスリンに関わる遺伝子の発現に低下が見られました。アルツハイマーの患者は脳内でインスリンがうまく働いていない。まさに脳の糖尿病なのです」

週刊新潮 2018年9月27日号掲載

特集「根本治療が見えてきた『アルツハイマー』」より

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