デジタル遺品を扱う業者が主役の異色ドラマ「dele」(TVふうーん録)

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「パソコンがあるからガラケーで充分。スマホ不要」と豪語してきた。友人からは「ガラケー信奉過激派」と思われてきた。が、先日、しれっとスマホに替えた。ワケあってタブレットまで導入。同じガラケー仲間から爆笑され、裏切り者呼ばわりされた。最先端デジタルの世界へ、そして林檎帝国へようこそ。幸運なことに林檎帝国に精通した女友達がいて、初期設定から便利ツール、「スマホ人」としてのマナーまで、懇切丁寧に教えてくれた。つっても、まだ慣れていないが。

 まず感じたのは恐怖だった。これからは無料電波の奴隷になり、充電残量を気にして、高機能で美しい遊戯の虜になるのか。そして、誰とでもたやすくつながる、膨大なデータの世界に素人の自分が足を突っ込むのかと思うと、ものすごく怖い。

 このマクラを活かせるドラマがある。故人のデジタルデータを扱う業者を描く「dele(ディーリー)」である。

 自分の死後、パソコンやスマホなどに入っているデータで、人に見られたくないモノを消去する業者だ。これらの機器が48時間起動せず、死亡確認ができれば、きれいさっぱり全削除。つまり死を前提にした、ニッチで斬新な商売である。

 営むのは山田孝之。難病で下半身麻痺となり、車椅子生活を送るプログラマー。偏屈で人嫌い、数々のアシスタントをやめさせてきたが、有能な弁護士の姉・麻生久美子の協力もあり、会社として成り立ってはいる。

 新たな実働部隊として麻生がスカウトしてきたのが菅田将暉(まさき)。見知らぬ人の懐に飛び込んでなつくのが得意な、人たらし青年である。

 この対照的なふたりが依頼人ののっぴきならぬ背景や、密かに温めている思いに触れながらも、仕事を遂行していく。機密情報もあれば国家権力の悪事もある。親子の確執もあれば、未解決事件の真相もある。家族には言えない秘密もあれば、悪意が凝縮されたデータもある。扱う案件の幅も広く、毎回異なるテイストがいい。

 天性の詐欺師体質に優しさと無邪気を詰め込んだ菅田。リサーチもハッキングも凄腕、常に冷静沈着かと思いきや、自分の趣味や嗜好の領域に入ると途端に熱く脆(もろ)くなる山田。権力も資格もないふたりが依頼人の思いに寄り添う。ふたりとも喪失感を抱えていて、響き合うものがあるからか。距離感も今どきの人間関係の温度を捉えているよね。

 日本のドラマの主人公は医者・弁護士・警察官など、国家資格取得者か公務員だらけ。あるいは、すでに死語となった企業戦士ばかり。狭い業界で似たような物語をいつまでも使い回す。なぜなら数字が獲れるから。

 そこに、この斬新な仕事。デジタル遺品の中身を調べる業者は既にあるかもしれないが、生前契約で全消去するという架空の業種が面白い。探偵モノの要素もあって心躍る。そして、すべての人が自分事に捉える設定の妙もある。もし自分が死んだら、と考えちゃう。

 人の数だけ膨大なデジタルデータがあり、それに付随する念慮が渦巻いている。これを恐怖と感じるのは、古い人間だからでしょうか。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2018年9月27日号掲載

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