くら寿司、バンダイ、ピザーラ……雑誌「幼稚園」の“企業コラボ付録”はなぜウケる?

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 小学館の「幼稚園」(10月号)が異様な売れ行き。すでにネットでは2745円(定価は940円 )ものプレミアがつき(9月23日現在)、乗り遅れたお父さんは、子供と妻とにせっつかれ「幼稚園」を求めて街を彷徨っているとか――。

「幼稚園」が完売になった理由はズバリ、バンダイとコラボした紙製の「ガシャポン」 。いわゆる“ガチャガチャの箱”のほう、つまり“販売機”を付録にしてしまったのだ。小型の紙製だが、つまみを回せばカプセルが落ちてくる作りは実物ソックリ!

 幼年誌 の付録に企業コラボという未知との遭遇は、なぜ実現したのか、付録担当者に話を聞いた。

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 幼年誌の付録一筋18年! 小学館第一児童学習局「幼稚園」編集部の大泉高志デスク 、まずは平謝り――。

大泉:手に入らないというお父様、お母様、本当に申し訳ございません。

――増刷すればいいのでは?

大泉:そうしたいのはヤマヤマなのですが、ガシャポン本体は紙ですから可能でも、カプセルがそう簡単には増産できないんです。

――確かにガシャポン本体も小ぶりなだけに、カプセルも本物より小さい。

大泉:特注なんです。雑誌の付録として挟むので、全体の厚みは3センチ以内に収めなければなりません。それを考えたサイズが、このカプセルです。それだけに、売れているからといってすぐに増産、というわけにはいかないんです。

イラストでは納得しない

――「幼稚園」はいつから企業とのコラボを始めたのだろうか。

大泉:9月号の無添くら寿司さんとコラボさせていただいた「かいてんずし つかみゲーム」 から始まりました。これも例月よりもかなり売れましたね。回転が速すぎるなどのご意見もいただきましたが……。

――「かいてんずし つかみゲーム」は紙皿に乗った紙製の寿司を回転する台(モーターつき)から取って、箸で寿司をつかむ……回転寿司店を付録にしたようなものだ。皿にはくら寿司の皿がプリントがなされ、寿司のネタも鮮やかな刺身が印刷されて、立体感まである凝った作りだ。

大泉:くら寿司さんのお店で、握っていただいた本物のお寿司を真上と横から撮影してそれを印刷した紙を曲げることで立体感を持たせています。誌面ではそのネタとなった魚の全体像を入れるなどして、お子さんに学んでもらおうというものです。

――なぜ企業とコラボしたのだろうか。

大泉:かつての付録なら、お寿司もイラストで、そこに仮面ライダーやアンパンマンのイラストをつけたでしょうね。でもお寿司と仮面ライダーは関係ありませんし、イラストで今の子供は納得しません。幼稚園児だって、スマホを使って写真を撮る時代ですから、リアルな映像が当たり前なんです。もちろん写真のほうが美味しそうに見えますしね。そこで企業の方にお願いして協力いただいたんです。一般誌もそうでしょうが、幼年誌もいまやライバルはスマホとタブレットになっています。それに勝とうとは思いませんが、デジタルとは違うアプローチを考えたとき、立体感があって動かせる物質感なら、ぼくらにもできることだろうと思うんです。

――第1弾がくら寿司となったのは?

大泉:たまたま、くら寿司さんで子供たちが大喜びしているのを目の当たりにしたんです。端末を使って注文するのも、お皿を取るのも面白がっている。くら寿司さんには、5皿に1回ゲームができて、当たりが出るとカプセルがもらえる「ビッくらポン」というものもあって、これも大人気です。やはり子供に認知されて、面白がってくれる企業に名前をお借りしてコラボしてみようと。くら寿司さんも、最初は驚かれていましたけど、爆笑してくれました。印刷されていない真っ白な状態の付録を持参して、ここに本物の写真を印刷したいと。

――大人の雑誌で企業コラボは今では珍しくなくなったが。

大泉:弊社でも異例だったと思います。子供雑誌の中でも初めての取り組みだったため、「なんで『幼稚園』の表紙にくら寿司のロゴが入るんだ?」という声もありました。だけど、外食産業だって、子供にはしっかりインプットされた身近な企業なんです。企業さんにとってもPRになると思いますし。

子供の欲望を探る

――第2弾では、子供とはまさにドンピシャのバンダイとのコラボ。

大泉:「今の子供はイラストでは納得しない」とは言いましたが、基本的にウケるものは変わらないと思っています。もう10年以上前になるかと思いますが、幼年誌『マミイ』(編集部註:現在は休刊)の付録に、バスの降車ボタンを付録にした。“ピンポーン”と鳴って“つぎ停まります”というアナウンスが流れるボタンですね。これが当たったんです。子供にとっては押したいけど、押すと叱られる、非常に魅力的なボタンなわけです。これで、子供の欲望をちゃんと探り当てられれば売れると確信しました。同様に、ガシャポンもお母さんに泣きながら「1回でいいから、回させて!」とお願いをしている子供を見かけるわけです。あの箱が家にあれば、好きなだけ回すことができるし、お母さんだって怒ることもなくなります。もちろん幼稚園児が作るには難しいので、子供がパーツを切り取って、お父さんに組み立ててもらう。「お父さんすごい!」ともなるわけです。家族の共同作業のツールとして使っていただければと思います。

――そして第3弾がピザである。やはりリアルに印刷されたピザを、時間内に見本通りに並べられるかを楽しむもので、時間が来るとポンと跳ね上がる仕組み 。

大泉:こちらもピザーラ さんの本社内にあるテストキッチンでピザを焼いていただきました。時間が来ると跳ね上がる仕組みはゼンマイ式でできています。

――モーターやカプセル、ゼンマイといった特注製品のために、増刷も難しくなるのだが。

大泉:確かにそうなんです。自分で自分の首を絞めているのかも。でも、かつてのバスの降車ボタンが本物そのままだったことを思えば、今回は紙と組み合わせることができたので、成長ポイントではないかと思っています。

――企業からは宣伝費など入るのだろうか。

大泉:いえ、それはありません。ただゆくゆくは、広告など出していただければ、価格に反映させることもできるかもしれません。

――今後もコラボは続けるのだろうか。

大泉:付録は前もって作らないといけませんので、半年ほど前から準備します。そうしたなかで、来年1月号はお菓子メーカーさん、2月号はゲームメーカーさんとのコラボが決まっています。

――企業コラボで幼年誌が売れる……子供の世界は実にリアルだ。

週刊新潮WEB取材班

2018年9月27日掲載

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