“プーチンの奇襲”を食らった安倍総理「北方領土」のダメージ

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 柔道の神様、三船久蔵十段が編み出した技に「空気投げ」がある。相手が足を踏み出す瞬間の力を利用して投げ飛ばす、“柔よく剛を制す”の基本理念に忠実な技だ。外交の世界でも、相手の力みを見透かす目が重要なようで。

 今月12日、ウラジオストクで開かれた東方経済フォーラムの場で、ロシアのプーチン大統領は突如、年末までに前提条件なしで平和条約を結ぼうと、安倍首相に提案した。

「今思いついたが、冗談を言っているのではない」

 と語ったが、北方領土問題の解決を大前提に平和条約締結の交渉を重ねてきた日本にとっては、冗談で済ませてほしい話だ。

「公の場で先手を打ち、支持率回復を狙ったのでは」

 とは、さる外交筋。

「消費税の引き上げ、公共料金の値上げで、プーチンの支持率は急落しています。国民の9割が反対している領土返還に応じるはずがない。領土問題を棚上げして平和条約を結べば、支持率回復に繋がりますからね」

 想定通り、発言後の会場は割れんばかりの拍手。露メディアをはじめ、欧米メディアもプーチン発言を評価する報道が目立った。

「一連のやり取りは、プーチンの一本勝ちです」

 こう“判定”するのは、拓殖大学海外事情研究所の名越健郎教授だ。

「実はこの発言は、安倍首相が平和条約締結に向けて『聴衆の皆さんにも、我々の歩みを支持してもらいたい』と前のめりな姿勢を見せたことが発端でした。この瞬間を見逃さずに繰り出した今回の発言は、さすが戦術家であり柔道家だと思いましたね」

 首相は、この奇襲に一切反撃が出来ずに議論は終了。

 歯舞・色丹2島返還と国後・択捉両島での共同経済活動が今の日本の狙いだが、交渉は暗礁に乗り上げた。

「今回、首脳間の個人的な親交を重視する安倍外交が通用しないことを証明してしまった。外交戦略の転換点を迎えています」(同)

 その後、同じくウラジオストクで柔道大会を観戦した安倍首相。果たして、外交のヒントを見つけたか。

週刊新潮 2018年9月27日号掲載

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