タイガー復活優勝!「ルール 」「賞金」「システム」米PGA「来季大変革」の秘訣
5年ぶり、ツアー通算80勝目のタイガー・ウッズ復活優勝が大注目を浴びた米PGAツアーのプレーオフ最終戦「ツアー選手権」(9月20~23日)会場「イーストレイクGC」に、今年は米国の若きスター選手、ジョーダン・スピースの姿がなかった。
ツアー選手権はフェデックスカップランキング上位30名だけしか出場できないエリートフィールドだが、スピースはプレーオフ第3戦の「BMW選手権」を終えた時点でランク31位となり、最終戦の出場資格を僅差で逃した。
それはスピースにもう1つ、別の意味ももたらした。米ツアーには「過去4シーズンで1度も出場しなかった大会に翌シーズン(5年目)は出場しなければならない」という決まりが2年前から設けられている。
各選手が新たに出る大会は「ニューイベント」と呼ばれており、もしもそのニューイベントに出場しなかった場合は「年間25試合以上に出場すべし」という義務試合数が科せられる。
そして、この「25試合以上に出場」も満たせなかった場合は、2万ドル(推定)の罰金もしくは3試合の出場停止処分が科される。
昨季まで、この規定に違反した選手は1人もいなかった。だが、今年は、ツアー選手権出場を逃したことで、スピースが「初の違反者」になってしまった。
スピースは昨年暮れに伝染性単核球症と診断され、今季序盤まで体調が優れなかった。それもあって「ニューイベント」を今季の自身のスケジュールに加えることができず、それでもプレーオフで最終戦のツアー選手権まで進めれば「25試合」に出られるはずだと踏んでいた。
だが、体調不良の末にゴルフも不調に喘いだ今季はツアー選手権出場を逃がし、出場試合数は「24」どまり。米ツアーからは公表されてはいないが、どうやらスピースは罰金処分を受け入れた模様である。
米ツアーがこうした新規定を設けるたびに、選手たちはそれを学び、従わなくてはならない。2019年1月からはゴルフルールそのものが大幅チェンジされるため、選手たちはそれも猛勉強しなければならない。
米ツアーのルール委員たちでさえ、「今季の全試合が終わるまでは自分が混乱するから新ルールはまだ勉強していない。年内の全試合が終わったら、それから2週間で一気に猛勉強して来季に備える」と言っているほどで、選手たちにとっても、今年のオフの「猛勉強」は必至となるはずだ。
どんどん新設される米ツアー規定。様変わりするゴルフルール。チェンジに富む昨今は、学ぶべき「NEW」がどんどん増えていく。
そんな中、今度は来季からの米ツアーのプレーオフのシステムも大きく変わることが発表された。
年間王者の賞金が「16億円」に!
米ツアーが2007年に創設した「フェデックスカップ・プレーオフ」は、これまで何度も改良が重ねられてきた。
現行システムでは、レギュラーシーズンを終えた段階でフェデックスカップのポイントランク125位までがプレーオフ第1戦の「ザ・ノーザントラスト」に出場し、第2戦の「デル・テクノロジーズ選手権」には100位まで、第3戦のBMW選手権には70位まで、そして最終戦のツアー選手権には30位までが進出する。
ツアー選手権終了後、最終のポイントランクで1位になった選手が年間王者に輝き、10ミリオン(約11億円)のビッグボーナスを手に入れるというのが今季までのシステム。だが、そのツアー選手権の優勝者と年間王者が別々の選手になり、表彰式に「2人の勝者」が並んだケースが過去3度もあり、その光景の意味がよくわからずに首を傾げたファンも多かった。
だが、来季からは、そうしたことのすべてがシンプルになる。
まず、プレーオフは4試合から3試合へ減らされ、出場資格はそれぞれランク125位まで→70位まで→30位までとなる。
いざ、最終戦のツアー選手権を迎えたら、ポイントランク1位の選手に「10アンダー」、ランク2位に「8アンダー」、ランク3位に「7アンダー」、ランク26位から30位には「イーブンパー」を与え、そこから初日をスタートする。
そして、4日間を終えてベストスコアの選手がツアー選手権の優勝者となり、同時に年間王者になるという新方式。もはや「2人の勝者」が生まれることはなく、勝敗を決するのは計算が難解なポイントではなくスコアだから、これもわかりやすくなる。
驚かされたのは、これまで年間王者に贈られてきた10ミリオンのビッグボーナスが、来季からは一気に15ミリオン(16億円超)に引き上げられること。他選手に分配されるボーナス総額も、現行の25ミリオンから60ミリオンへと大幅に増額される。
さらに驚かされたのは、レギュラーシーズン終了段階でも上位10名にボーナスを出す「ウィンダム・リワード・トップ10レース」が新設されること。来季からは、プレーオフ・シリーズに突入する前の段階で、ランク1位には2ミリオン、2位には1.5ミリオン、10位でも50万ドルのボーナスが贈られることになった。
稼いでナンボのプロゴルファーにとっては、ダイレクトにモチベーションが上がるこういうNEWであれば、文句なしにウエルカムであろう。
視聴率重視で1試合減
それにしても、これだけの大金が一体どこから湧き出してくるのかと言えば、米ツアー最大の収入源である莫大なTV放映権料。
だからこそ米ツアーは、「最大顧客」であるTV局にとっての利便性を常に最優先で考えている。
プレーオフが4試合から3試合に減らされるのも、その1つだ。プレーオフ、とりわけ最終戦がNFLやMBAのシーズンと重なれば、TV中継にも視聴率にも大きな影響をおよぼす。それを避ける意味で、米ツアーはプレーオフを3試合に減らし、シーズンを早めに切り上げる選択をした。
さらに、もう1つ。まだ確定ではないのだが、プレーオフの大幅チェンジとともに「セカンドカットの廃止」も討議と検討が続けられており、米メディアの間では「決定は間近」とも囁かれている。
ご存じの通り、米ツアーのレギュラーシーズンでは、予選2日間を終えた段階で予選カットが行われ、通常70位タイまでが決勝に進む。
だが近年は79名以上が予選を通過した場合は、3日目終了後に再度70位タイでカットする2段階予選(セカンドカット)が行われており、これもTV局への配慮だ。決勝ラウンド、とりわけ勝者が決まる最終日にプレーする人数が多すぎると、進行が遅くなり、TV中継の時間内で収まらなくなる。それを避けるために米ツアーは「セカンドカット」を行ってきた。
3日目にカットされた場合は「MDF(Made cut, but Did not Finish )」と表記され、予選落ち扱いにはならない。だが、選手たちの間からは「どうせ最終日に進めないのなら、2日目に予選落ちして次の試合に備えるほうがむしろマシだ」といった声が上がり続けていた。
元々はTV局側の事情を考慮して考案されたセカンドカットだが、選手たちから批判や不満が上がれば、米ツアーはきちんと耳を傾ける。その姿勢が根底にあるからこそ、米ツアーと選手の間に信頼関係が築かれ、日頃はTV重視の決めごとがどんどん増えても、選手たちは黙って受け入れているのだと思う。
小さな「魅力」の積み重ね
いわば「アメとムチ」のようなものである。選手にとって高額賞金は「アメ」。厳しい決めごとや目まぐるしく変化する環境への対応力が問われる部分は「ムチ」。日ごろの大半の事柄がTV重視になるあたりも「ムチ」。だが、いざというとき、やっぱり選手の声に寄り添う米ツーの根本姿勢は「アメ」と言うことができる。
そして、選手のみならずスポンサーに対しても、米ツアーが「アメとムチ」をうまく使い分けていることは想像に難くない。
米ツアーは、かつては1大会のタイトルスポンサーに過ぎなかった航空配送大手「フェデックス」を徐々に引き込み、「フェデックスカップ」というシーズンを通じたイントレースのスポンサーへと引き上げた。
同様に、今季までは、やはり1大会のタイトルスポンサーだった「ウィンダム・リゾート」を、前述の通り来季からはレギュラーシーズン終了時点での新たなボーナス付与システム、「ウィンダム・リワード・トップ10レース」のスポンサーへ引き上げた。
どちらも、そっくりな手法であり、それをやってのけた米ツアーの歴代会長やスタッフたちの手腕は実に鮮やかだ。
そんな大きなビジネスに打って出る一方で、米ツアーのスタッフたちは日頃から小さな努力も欠かさない。ツイッターなどのSNSで細々した情報を即座に、そして魅力的に発信しているのは、その代表例だ。
たとえば、悪天候でプレー中断や遅延が続いていたプレーオフ第3戦のBMW選手権では、プレー開始の目途がなかなか立たなかった最終日の昼下がり、米ツアーが発信したこんなツイートが人々の目を引いていた。
「レイン、レイン、ゴー・アウェイ!(Rain rain go away!)」
これは「痛いの、痛いの、飛んで行け!」の英語バージョンである「ペイン、ペイン、ゴー・アウェイ!」をもじったもの。
苛立ちや疲労がかさんでいた選手や関係者、そしてファンも、これを見て、思わずクスッと笑ったに違いない。
そういう小さな瞬間を積み重ねていくことが、米ツアー魅力の最大化につながり、米ツアーのファンづくり、ビッグなサクセスへつながっていく。私には、そう思えてならない。
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