過去には滝川クリステルとイベントも 獣医師が告発する「ピースワンコ」の偽善
野犬ばかりのスコラ高原シェルター
私も最初の2カ月は、だれもが見学できるシェルターで、犬の一般診療に携わりました。そこはピースワンコの表の顔で、選別された200頭前後の、里親が見つかりそうなフレンドリーな犬を、15〜20名ほどのスタッフで世話しています。施設もきれいで、フードも手羽先を叩いて煮たのを混ぜてあげたり、老犬には食事に配慮し、お尻をもって運動させたりもする老犬クラブが存在したり、至れり尽くせりです。
2カ月ほどして、神石高原町内のスコラ高原シェルターが手薄なので、こちらに詰めてほしい、と指示されました。そもそも、狂犬病の予防注射を打つのが追いつかないので手伝ってほしい、というのが、私がピースワンコに呼ばれた理由です。それからは毎日、犬たちに注射を打つ日々でしたが、同時に、驚くべき光景ばかりが目の前に展開することになったのです。
公開されているシェルターでは一頭一頭にスタッフの目が行き届き、病気の犬は口元までご飯を運んで食べさせてもらっています。ところが、一般の人には場所すら知らされていないスコラ高原シェルターの犬たちは、比較にならないほど差別されていました。
そこでは犬の9割以上は雑種で、人に慣れていない事実上の野犬ばかり。私が初めて行った時点で900頭ほどいて、狭い空間に20頭は押し込まれていたりと、劣悪な環境で暮らしていました。犬舎の床はペンキが塗られ、ドッグランは土なので、どの犬も爪が通常の2倍くらいに伸び、爪の損傷も多いのですが、爪を切ろうとして押さえると、反撃してくるような犬ばかり。床で足を滑らせ、臀部を打撲したり足を捻挫したりという症例も多かったです。
こんな犬たちを7、8人で世話して、スタッフ1人当たりの頭数は、公開のシェルターの10倍くらい。フードも1日1回、直径30センチくらいの皿を20頭につき三つ程度置くだけ。取り合いで食べ、満腹にならない犬もいます。しかも驚いたことに、外科の器具が一切ない。犬がケガをしても処置さえできません。治療が難しい病気の犬などは、たった1人の専属獣医師がクルマに乗せて街の獣医師のもとに運びますが、いったん出かけると24時間戻らないこともありました。
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