得意の“メシモノ”ドラマはゆずれないテレ東の意地「極道めし」(TVふうーん録)

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 地上波そっちのけ、最近BSジャパンのドラマが好物だ。とりあえずBSで放送し、その後、地上波のテレ東で深夜に密かに流す方式も、奥ゆかしくて好きだ。優柔不断な五股男(大野拓朗)が女たちと別れるために、学生時代の先輩(夏帆)に泣きつくラブコメ「グッド・バイ」も毎週楽しみにしている。話をしようにも、観ている人は、私の周囲にひとりもいない……ぽつん。

 今回、俎上に載せる「極道めし」は、40代以上の「ドリフ」「スクール・ウォーズ」「ふぞろいの林檎たち」を観ていた人に勧めたい。若者はぜひスルーしてくれ。

 舞台は刑務所雑居房。受刑者たちが暇潰しに「うまいモノの思い出話」をする。話を聞いて、のどを鳴らした人数で勝敗が決まる。賞品は、食事に出るおかずや甘味だ。コロッケや牛肉しぐれ煮、ジャムや羊羹など。シケたムショメシの中でもささやかな愉しみ。それを賭けるので、みんな真剣。

 すでに映画化された漫画原作だし、「あーはいはい、テレ東系列がお得意なメシモノですね」と侮っていたが、のっけからハマった。

 主演は、実力とキャリアがあるイケメン俳優なのに、記憶に残りにくい福士誠治。銃刀法違反で収監された新人受刑者だ。福士の雑居房にいるのが、顔面凶器の小沢仁志、ハイテンション&マシンガントークの柳沢慎吾、顔も性癖もクセが強そうなインテリ・今野浩喜、穏やかな小悪党の徳井優だ。

 いい座組だわぁ。大手芸能事務所のゴリ押しもなく、話芸と腕の実力勝負。しかも坊主頭のヅラの精度が低くてドリフっぽい。おっさんたちが小さな畳敷きの雑居房で膝突き合わせて円陣組んだり、時にはキャッキャと肉弾戦で戯れる。昔の男子小学生を観ているようだが、内容は「ゴクリ(のどを鳴らす)」の魅力と、苦くて切ない体験も含めた「ほろり」で構成。ちゃんと大人(しかもダメな大人)の物語に仕上がっている。

 私が子供の頃から変わらないのが、柳沢の巧みな話芸。擬音を駆使し、その世界へ引きずり込む。24時間交感神経が優位であろう体質は不変だ。コワモテ小沢は、極悪人になりきれない中途半端さが、想定外に可愛い。唯一インテリ役の今野も、周囲を俯瞰しながら見下す経済犯がよく似合う。ちっちゃいオジサン・徳井の郷愁を誘う柔らかな語り口にも引き込まれた。窃盗を繰り返す人のリアリティに唸る(途中で医療刑務所に移送。元力士の巨漢・キャッチャー中澤が登場)。アドリブ合戦も楽しそうだ。

 福士はこの愉快な仲間たちに巻き込まれつつ、受刑者の厳しい現実を思い知らされる。暴れても泣いても、過去は変えられない。愛する人も仕事も帰る家もない。

「メシ話をするのは希望を失わないため」と諭される。福士の心情描写が肝なのだ。

 7話が突然、謎の出演者トーク&女性版になってイラっとしたが、今後福士の過去に迫るもうひと悶着がありそうな気配。無気力な看守・和田聰宏も気になる。毎回の回想シーンも手練(てだ)れの役者が多いので、私の密かな愉しみだ。別に密かにしなくてもいいんだけど。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2018年9月20日号掲載

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