日本軍に美人少佐? 鬼畜兵が中国女性を緊縛! のコメディ 爆笑「中国抗日ドラマ」対談
反日と抱き合わせならOK
西谷 その後も作品を足かけ5年に亘ってご覧になってこられて。1話あたり45分、それが30〜40話くらいありますから、大河ドラマのレベルですよね。
岩田 そうなんです。それを120タイトルくらいはクリアしましたね。ここまで見続けられたのは、先ほどもお話ししましたが、ストーリーやアクションシーンにおける荒唐無稽さゆえでしょうね。シリアスなだけだと単に反中感情を煽られて頓挫していたことでしょう。愛国の志士たちが「太平天国の財宝」を日本軍から守るべく上海を舞台に活躍する「孤島飛鷹」(画像2)では、オフロードバギーやデジタル式の速度メーター、電動工具、赤外線カメラといった、その時代には存在しなかったアイテムが出てきたりします。随所で登場する奇怪な日本語も味わい深い。なかには、カンフーで空を飛ぶ作品もある。
西谷 中国では新聞やテレビといったメディアはすべて政府が検閲していて、その意に反する作品は世の中に出すことができませんね。
岩田 はい。高校生の恋愛を描いた学園ドラマですら、「不純異性交遊を助長してはならない」という理由で禁止されています。ボーイズラブや同性愛といった、性的少数者をテーマにしたものも、もちろんダメ。あと、不良高校生の青春を描いたヤンキードラマもご法度です。“カルトや迷信を流布してはならない”ということで、「ゴーストバスターズ」のような幽霊が出てくるテレビドラマも禁止です。
西谷 ダメなものが多すぎますね。
岩田 ただし、抗日ドラマの枠組みのなかであれば検閲が緩くなり、ある程度許されてしまうんです。
西谷 抗日や反日というテーマ自体は当局の思惑にピタリと一致している。その大義名分の下でなら、あるいはプロパガンダとしてなら、多少の脱線は大目に見ようという考え方なんでしょう。それにしても、反日と抱き合わせならOKというのは、変な理屈ですね。
岩田 「偏偏喜歓你」(画像3)という作品は、その典型例です。軍人を養成する士官学校に、出自を隠した年頃の美人女性が教官として赴任することになり、ヒロインを巡って生徒らがバトルを繰り広げる。生徒の中に日本軍のスパイが混じっていたりもします。
西谷 貧乏な女子とリッチな男子の取り合わせは、日本で人気のコミック『花より男子』をなぞるようです。反日を隠れ蓑にして検閲を突破しようと、涙ぐましい努力をしているわけですね。
岩田 はい。恐らく、イケメンだらけの学園ドラマを作りたかったんでしょう。人工呼吸の実習訓練や脱衣所での着替えなど、いわゆる腐女子が喜ぶお色気シーンも満載。出演している俳優はみなその後にスター街道を歩んでいて、現在の年収は億超えですよ。
西谷 ほかに印象に残っている作品はありますか?
岩田 アリゾナの砂漠を思わせるようなシーンが連発する「大漠槍神」(画像4)。ゴビ砂漠を舞台に731部隊の細菌研究所を破壊する中国軍の奮闘を描いているのですが、監督の本音としては西部劇を作りたかったんでしょう。ガンマンが紹興酒のカメを的に銃の練習をしていたり、砂漠のスケールが小さかったりと、パクリ感が漂っています。イタリアで作られた西部劇は「マカロニウエスタン」と呼ばれていますが、「ラーメンウエスタン」とでも言うんでしょうか……。
西谷 SM雑誌に出てきそうな緊縛シーンがチラホラありますね。
岩田 ヒロインが日本兵に着衣の状態で麻縄で縛り上げられ、鞭で責められるというもので、なんとなくエロい。緊縛が一種のお色気シーンとして使われるのは、抗日ドラマではお決まりです。普通のドラマでは表現しにくいですが、社会の成熟とともに、そういうものを見たいという需要が高まっている、その裏返しです。
(2)へつづく
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