米大統領は日本人を「けだもの」と呼んだ あえて「原爆投下」を選んだトルーマンの人種差別
日本人は「けだもの」
『原爆 私たちは何も知らなかった』ではその理由や経緯について詳述しており、ここではとてもすべては紹介できないので、もっともわかりやすい理由を一つだけ挙げておこう。それはトルーマン大統領の人種偏見だ。
「戦争に勝つためなら、大量破壊兵器として使うので十分なのに、わざわざ大量殺戮兵器としての使い方を選んだ理由は、トルーマンとバーンズ(国務長官)が日本人に対して持っていた人種的偏見と、原爆で戦後の世界政治を牛耳ろうという野望以外に見当たりません。
トルーマンは、ポツダム会談でチャーチルと原爆のことを議論したときも、原爆投下のあとの声明でも、サミュエル・カヴァートというアメリカキリスト教協会の幹部に宛てた手紙でも、繰り返し真珠湾攻撃のことに言及しています。この点は見逃せません。
つまり、真珠湾攻撃をした日本に懲罰を下したかったのです。真珠湾攻撃が彼の復讐心を掻き立てるのは、被害が大きかったというよりも、自分たちより劣っているはずの日本人がそれに成功したからです。これは根拠のない推論ではありません。
トルーマンは若いころ(正確には1911年6月22日)、のちに妻になるベスに送った手紙のなかでこのようにいっています。
『おじのウィルは、神は土くれで白人を作り、泥で黒人を作り、残ったものを投げたら、それが黄色人種になったといいます。おじさんは中国人とジャップ(原文のママ。日本人の蔑称)が嫌いです。私も嫌いです。多分、人種的偏見なんでしょう。でも、私は、ニガー(黒人のこと)はアフリカに、黄色人種はアジアに、白人はヨーロッパとアメリカに暮らすべきだという意見を強く持っています』
大統領になってもこの人種的偏見から抜け出せていなかったことは、彼が前述のカヴァート宛の手紙で『けだものと接するときはけだものとして扱うしかありません』と記していることからもわかります。彼が『けだもの』と呼んでいるのは『ジャップ』のことです。人種差別が厳然としてあった当時としても、大統領の言葉として著しく穏当を欠いた言葉です」
日本人を「けだもの」と考えていたアメリカ大統領にとっては、いくら日本人が死のうが知ったことではなかったし、新兵器の威力を世界に誇示するにはむしろ好都合だったということである。
もっとも、こうした選択をしたことで、アメリカは自らの首を絞めることになる。その後の果ての無い核拡散、核開発競争は、結果的に世界を危機に追い込んだだけだとも言えるだろう。
予言の書
実は、原爆投下が決定される前に、科学者たちからアメリカ陸軍長官あてに1通のレポートが提出されていた。「フランク・レポート」と呼ばれるこのレポートの中には、日本への原爆投下を思いとどまるべきだ、といった進言が書かれているが、その先見性には目を見張るものがある。
ここで科学者たちは、原爆の情報をアメリカが独占するのではなく、オープンにして国際管理を進めるべきだ、とも主張している。
科学技術の独占は極めて困難なので、結局のところ、いつか敵国にも共有されることになる。それならば先手を打ってソ連などが開発できていない現時点で、仲間に引き込んでしまって、世界でこの兵器を管理してしまうほうが現実的だ、という論理である。
さらに、レポートにはこんな一節もある。
「デモンストレーションであれ実戦使用であれ、原爆をいったん使用したらその時から原爆開発・軍拡競争が始まる。世界の各国はあらゆる資源と技術をためしてより威力のある原爆をより効率的に安価に数多く作ることに取り組む。さもなければ、自国を守れないからだ」
このレポートは「予言の書」と言ってもよいほど現在の世界状況を言い当てている。しかし、こうした訴えも、「ジャップを懲らしめる」というトルーマンの考えを変えるには至らなかった。科学者も軍人も、理性を働かせて説得に動いたが、結局、原爆は広島、長崎に投下されたのだ。
有馬氏は、同書の中でこう訴えている。
「現在核保有国のトップになっている大統領、元首、首相の顔を思い浮かべてみましょう。
彼らはトルーマンより、ましでしょうか。
このような過ちを犯しそうになく、人間的欠陥もなさそうでしょうか。彼らの周囲には優秀な閣僚、側近、官僚、科学者はいるでしょうか。そうだとして、国家のトップたちは、彼らの英知に素直に耳を傾け、常に理性的な判断ができるでしょうか。
だとすれば、私たちは、自ら戦争をしかけず、平和を祈っていれば、二度と原爆の災禍に遭うことはないでしょう。原爆死没者も安らかに眠ることができると思います。
そうではないと思うのなら、今まで疑ったことがないものを疑い、考えたことがないものを考え、したことがないことをしてみなくてはなりません。
同じことを繰り返していては、いつヒロシマ・ナガサキの過ちが繰り返されるかわかりません」
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