ニュースのお手本「NHKニュース7」の堕落… 近頃、日本語の使い方がおかしいぞ!

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ニュース原稿が酷い

 さてもうひとつ、「ニュース7」でがっかりさせられるのは、言葉の乱れ。いや、アナウンサーが「福音」を「ふくおん」と読み続けたとかいうレベルの話じゃなく、原稿の質の落ち具合です。たとえTVであっても原稿はニュースの命だし、NHKは長らく言葉をウリにしてきてもいたはずなのに、看板ニュース番組の言葉が、今やワタシには落ち着いて聞いていられない。

 中国は広東省が大雨に見舞われて大洪水という海外ネタ(2日)では、「街の広い範囲が濁った水で浸水しています」。水で浸水……あれか、NHKじゃ近ごろは、「火を着火」したり「氷が結氷」したり「陸に着陸」したりしていいのか? 会長が「右に右傾」したりディレクターが「左に左傾」したり、原稿チェックの水準が「下に低下」したり受信料の未納率が「上に上昇」したり、そういうのもOKなのか?

 続いては、ジャカルタのアジア大会で女子ホッケーの「さくらジャパン」だかなんだかが金メダル取ったというスポーツ枠の短信(1日)。決勝の流れを伝えて曰く、「全員が強い気持ちで挑んだと、徐々に流れを引き寄せます」だとさ。

「強い気持ちで挑む」にせよ「流れを引き寄せる」にせよ、NHKでは新人記者が高校野球の地方予選を追っかける段階でダメ出しされるレベルの空虚な紋切り型。それを連発しているのに加えて、「全員が強い気持ちで挑んだ」と語ったのが誰なのかもよくわからない、そういう不出来な原稿が「ニュース7」で読まれる。これは放送事故の一歩手前だよ。

 そしてトリは、アメリカの上院議員の古株で共和党の大統領候補にもなったジョン・マケインの訃報(8月26日)。「ニュース7」は死者の来歴を伝えるなかで、ベトナム戦争で捕虜になったという話と、帰国した後に英雄になったという話、この2つを「しかし」という接続詞で結んでしまってました。

 捕虜になればそれだけで尊敬の対象になりうるという国は世界に山ほどあって、アメリカはその代表格。あの国を伝えるニュースでは「捕虜になりました。“そのため”英雄になりました」というストーリーこそが正解であって、「捕虜になりました。“しかし”英雄になりました」なんて流れはありえない。

 NHKがネットのニュースサイトに乗せた死亡記事は「ニュース7」版より長くて、そこではマケインを「捕虜になりながらも5年半にわたって耐え抜いた英雄」と紹介。捕虜はNGという価値観が「ながらも」という逆接に潜んでいるけれど、長い捕虜生活で過酷な扱いを受けた後に生還した点に触れてる分、まだマシです。

 そのあたりを省略し、さらに「しかし」とキツく話をつないだ「ニュース7」の伝え方はもう、ほとんど誤報の域。最初に聞いたときは、耳元で東條英樹の英霊が囁いてくれたような気がしたよ、「生キテ虜囚ノ辱メヲ受ケズ」って。あの罪深い戦陣訓が元国営放送のDNAには組み込まれてるのかね。

「ニュース7」はニッポンで一番視聴率の高いニュース番組だし、池上彰に教えてもらうまでもなく、政財官その他いろいろのおエラいさんたちが一番気にしてるニュース番組。そういう存在について(たとえおふざけでも)語るとき、出てこないほうがおかしいキーワードがあったんだけれど、今回はココまで使わずじまいでした。だって、NHKの7時のニュース、なんだかだいぶ遠いところまで流れてきちゃったもんなぁ、“報道”から。

林操(はやし・みさお)
コラムニスト。1999〜2009年に「新潮45」で、2000年から「週刊新潮」で、テレビ評「見ずにすませるワイドショー」を連載。テレビの凋落や芸能界の実態についての認知度上昇により使命は果たしたとしてセミリタイア中。

週刊新潮WEB取材班

2018年9月13日掲載

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