「笑う門には福来たる」は本当か 脳研究者が解説する「笑顔の効果」

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 朝日新聞朝刊(9月4日付)の天声人語に〈あれは誰に教えられたのだろう。先輩記者か、あるいは何かで読んだのか。「苦しいときほど、笑え」。ときどき実行していて、家族から「何だか怖い」と言われることがある。それでも笑ってみると、少しだけ前向きになる気がするのだ〉という文章が掲載された。たしかに〈笑う門には福来たる〉なんてことわざもあるくらいだし、そのような言葉を耳にしたことがある方も多いだろう。

 しかしこの言葉、あながち迷信でもないようだ。天声人語でも紹介されているが、脳研究者・池谷裕二著『脳には妙なクセがある』によると、笑顔に近い表情を作ることで、快楽に関係のあるドーパミン系の神経活動に変化が出るという実験結果があるという。今回はその実験について詳しくみてみよう。(以下同書より抜粋、引用)

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 笑顔は感染します。こんな奇妙な実験が行われています。平生からあまり笑わない、どちらかといえば仏頂面(ぶっちょうづら)で近寄りがたいタイプの人を笑わせるにはどうしたらよいかという実験です。どんなに冴(さ)えたギャグでも100%の確率で笑わせることはできません。かえって不機嫌にさせてしまうこともあるでしょう。こんなときは隣に座って、ただ根拠もなくケラケラと笑い続けるというのが、もっとも確実な方法です。

「怒れる拳(こぶし)、笑顔に当たらず」ということわざがあります。怒って拳を振り上げても、相手が笑っていると殴れない、という意味です。これこそが笑顔の力。笑顔はコミュニケーションにおける最強の武器です。

笑顔を作るから楽しいという逆因果

 ところが研究が進むと、笑顔は、それを見る人(笑顔の受信者)だけでなく、笑顔を作る人(笑顔の発信者)にとっても、よい心理効果があることが明らかになってきました。

 まず独オット・フォン・ゲーリケ大学マグデブルグのミュンテ博士らの論文を紹介しましょう。

 イラストを見てみましょう。

 女性が箸(はし)を口にくわえています。左図は横にして歯で噛んでいます。右図は縦にして唇で挟んでいます。

 箸を横にくわえると(左)、表情筋の使い方が笑顔と似ています。決して笑っているわけではありませんが、強制的に笑顔に似た表情になるのです。一方、縦にくわえると(右)、沈鬱(ちんうつ)の表情になります。

 ミュンテ博士らは、笑顔に似た表情をつくると、ドーパミン系の神経活動が変化することを見いだしています。「ドーパミン」は脳の報酬系、つまり「快楽」に関係した神経伝達物質であることを考えると、楽しいから笑顔を作るというより、笑顔を作ると楽しくなるという逆因果が、私たちの脳にはあることがわかります。

 実際、図のような2つの表情をつくってマンガを読み、マンガの面白さに点数を付けていくと、同じマンガであっても箸を横にくわえたほうが高得点になることが知られています。

 さらに驚くことがあります。次のリストを見てください。

【おいしい 死 親切 ほめる 負ける 笑う 失敗 暗闇(くらやみ) 遊園地 ……】

 これらの単語が「楽しい」と「悲しい」のどちらの感情に属するかを分類してみましょう。箸を横にくわえると、楽しい単語を「楽しい単語だ」と判断するまでの時間が、悲しい単語を「悲しい単語だ」と判断する時間よりも短くなることがわかりました。つまり、笑顔は楽しいものを見いだす能力を高めてくれるということです。

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 同書によれば「笑顔の効果は古くから心理学的に調べられています。楽しい感情には、問題解決を容易にしたり、記憶力を高めたり、集中力を高めたりする効果があることが報告されています」という。なるほど、脳科学的にみても、笑う門には福が来るようだ。

デイリー新潮編集部

2018年9月12日掲載

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