iPS細胞治療の最新フェーズ 「がんを殺す」細胞を無限量産、腎臓まるごと再生で「人工透析」不要に
豚の腎臓
最初のステップは、患者の血液からiPS細胞を作り、腎臓のもとになるネフロン前駆細胞を分化させること。そして、2つ目のステップで尿を作る機能を持たせ、3つ目のステップで尿を排出させる経路を作れば晴れて腎臓の完成だ。
その過程で面白いのは豚のお世話になることで、
「前駆細胞が腎臓へ育つには、体の中にあるニッチという保育所のような場所が必要です。けれど、ニッチは腎臓が出来た時点で消滅してしまうので、人間には備わっていない。そこで使うのが豚の胎児のニッチです。豚の腎臓は人間と大きさが近く、食肉に供されていますから倫理面のハードルもクリアできます」(同)
治療では、ヒトの前駆細胞を豚のニッチに注入した時点で取り出して、そのまま患者に移植するが、その際には豚の前駆細胞もくっ付いてきてしまう。そこで、
「患者さんには豚の細胞を死滅させる薬を飲んでもらいます。そうすると、豚の前駆細胞は消え、患者さんの体内にある血管が腎臓に絡んでどんどん育ちます。あとは尿管を手術で繋いで尿を膀胱に導いてあげれば患者さんは普通にトイレで排尿できるようになります。移植手術も腹腔鏡を使って行うことができます。開腹しないので、高齢者や乳幼児にも施術でき、仮に腎臓が上手く育たなくても、手術をやり直せるメリットもあります」(同)
問題は国の認可が下りるかどうかという点だが、条件を整えるには膨大な予算が要ると横尾氏が話を継ぐ。
「ヒト由来の前駆細胞を豚のニッチに注入したものを『腎臓の芽』と呼びますが、体内に移植するので病原体が入っていないものを用意する必要がある。そのためには、細胞の培養や豚を無菌状態で生育するなどの設備投資に40億円ほどかかります。海外では他の動物の臓器移植が200例ほどありますが、条件を守った上で行われているので感染症の報告はこれまでありません」
『腎臓の芽』は冷凍保存が可能で、いつでもどこへでも移動させられるため、国内外の多くの患者の腎臓を再生することもできる。
「実現すれば真っ先に小児を対象にした手術をしたい。生まれた直後から腎臓が機能しない場合、従来の移植手術に耐えるためには体重をできれば20キロ程度まで増やす必要がありますが、その間に亡くなってしまうケースもあります。手術を受けさせるため、たくさん食べさせると毒素が溜り透析の負荷がかかる。そのため、親御さんたちは、成長させたいけど食べさせられないというジレンマにも陥っています」(同)
次のフェーズに入った再生医療は、次の10年で貴方の命も救うかもしれない。
[3/3ページ]