iPS細胞治療の最新フェーズ ドパミン神経細胞移植で「寝たきりゼロ」、心機能を回復させる「魔法のシート」

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細胞500万個を脳に移植

 その中身に触れる前に、この病気が発症する仕組みを改めて高橋氏に聞くと、

「脳の中には様々な神経伝達物質がありますが、その中のひとつがドパミンです。パーキンソン病では神経細胞でドパミンを作る細胞に、あるタンパク質が異常に溜まり、細胞の数が減っていきます。そのために脳内のドパミン量が少なくなり、体の動きが悪くなります。それを改善するため、細胞移植で補おうというのが、私たちの考え方です」

 今回の治験では、ヒトのiPS細胞を脳へ移植することで症状を抑えるという。

「iPS細胞は体のあらゆる細胞になれ、どんどん増えるという特徴があります。これを利用し、まずヒトの皮膚や血液の細胞からiPS細胞を作る。iPS細胞からドパミンを作る神経細胞をたくさん作り、約500万個を脳の中に移植します。頭蓋骨に穴をあけ注射する方法を用いますが、この手術は、脳腫瘍の患者さんから腫瘍の一部を採取する方法として広く行われている一般的なもの。過去の研究で、脳に移植した細胞は10年は生着するとされており、移植によって薬の服用が要らなくなった症例も報告されています」(同)

 現行医療では、患者がドパミンのもとになる物質を薬として飲むことで、症状を抑えている。

 だが、ドパミンを作る細胞の減少は止まらないので、罹患して10年ほど経てば薬を飲んでも症状をコントロールすることが難しくなると高橋氏は続ける。

「今回の移植手術では、ドパミンを作る神経細胞を脳へと直接注入するので、再び脳内のドパミン量が増えることが期待できます。それでも、残念ながら患者さんの中には効果が望めない方がいます。自力で立ち上がれないほど重症化した患者さんは、ドパミンを受け取る神経細胞まで傷んでしまっているので、ドパミンを補充しても手遅れです。なので、症状が進行し薬の効き目が悪くなったもののドパミンに対する反応性が残っている患者さんたちに細胞移植を行うことが重要です」

 むろん、iPS細胞から神経細胞を再生する技術が、僅か10年で治験に漕ぎ着けたことを踏まえれば、苦しむ人々への大きな福音であることには違いない。

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