「消滅可能性都市」東京の恐るべき実態

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地域再生の成功学(5)

「空き家」問題は地方特有のものと勘違いされがちだが、じつはもっとも空き家数が急増し、日本経済に負の影響をもたらすと懸念されているのは東京都である。

「千代田・中央・港区などのごく一部を除けば、東京も地方都市のひとつに過ぎない」と看破するのは、東京神田の空きビル街の再生プロジェクトをはじめ、日本全国で遊休不動産を活用した「現代版家守」をプロデュースする清水義次さんだ。

 この清水さんの見方に賛同するのは、地域振興の専門家の藻谷浩介さんだ。藻谷さんの著書『完本 しなやかな日本列島のつくりかた』(新潮文庫刊)に収録された2人の対談から、一部を再構成してお伝えしよう。

千代田・中央・港区以外の東京は「地方都市」

藻谷 日本における空き家問題のマクロ状況について、2013年の住宅・土地統計調査の速報値に基づいて確認をしておきたいと思います。

 まず全国の空き家率は13・5%。つまり7~8軒に1軒が空き家という由々しき状態です。しかし、より注目すべき数字は、東京都の空き家率が11%もあるということです。つまり9軒に1軒が空き家ということだから、地方と大差がない。

清水 ああ、やっぱり。千代田・中央・港区などのごく一部を除けば、東京も地方都市のひとつに過ぎないというのは、私の実感とも重なります。

藻谷 この数字を見た瞬間に「東京はマンションの造りすぎだろ」とわかると思いますが、実際に空き家の内訳を見てみると、「賃貸・分譲用なのに空いている」物件が、東京都全体の住宅の9%もある。賃貸・分譲に出ている物件のうちの9%ではなく、全戸数に対しての9%です。

清水 そんなにあるんですか?

藻谷 過疎地の県、たとえば島根県などでは、貸す気も売る気もない田舎の空き家が全住宅の9~10%あるけど、貸したり売ったりしたいのに空いている物件は全戸数の5%です。これが東京となると、市場に出しているのに住み手のいない物件が、全戸数の9%もあるわけです。

 と、ここまでは率の話ですが、絶対数を見たらどうなるか、もう容易に想像がつきますね。全国に820万戸ある空き家のうち、1割の82万戸が東京都内にある。次いで大阪府、神奈川県、愛知県。日本の空き家の4分の1が首都圏1都3県に、半分近くが三大都市圏にあります。

清水 要するに、空き家問題というのは地方の話ではなく、むしろ東京をはじめとする大都市圏の話ということですね。

藻谷 その通りです。たとえ農山村の空き家をすべて潰しても、せいぜい全体の1~2割。何の解決にもなりません。

「地方消滅」の大誤解

藻谷 ちなみに「新書大賞2015」に選ばれた増田寛也氏編著の『地方消滅』(中公新書)のことを、田舎の問題を論じた本だと誤解している人が多いですが、東京の豊島区が消滅可能性都市に入っているように、あれは東京も含む日本全体の問題を論じている本なのです。そもそも大人2人から子供が1人しか生まれていない東京は、地方が消滅して上京する若者がいなくなったら、自分も消滅してしまう運命なのです。

 さらには何をトチ狂ったか、「農山村を潰して、日本全体をコンパクトシティ化していかないと、国際競争に生き残れない」などと言いだす輩まで現れて……。

清水 何ですか、それは(笑)。もう完全に認識が誤っていますね。そもそもコンパクトシティの意味がわかっていないんじゃないかな。

藻谷 そうなんです。1986年、日本で最初にコンパクトシティを提唱した佐々木誠造・前青森市長も、カンカンに怒っていました。「俺が言ったのは、中途半端な郊外地域の拡大を抑えて、農村と都心を活かそうという話なのに、なんで農村を潰すなんて方向が出てくるんだ!」って。

 コンパクトシティというのは、せいぜい500メートル四方の範囲の中にいろいろな都市機能が集積した、賑わいのあるヒューマンスケールの都心を作ろうということですよね。農地も山林もなく、かと言ってお店も出しにくい、個業の営めない都市近郊のスプロール化を止めようという問題意識です。農山村にもそれぞれコンパクトな中心集落はあっていいと思いますが、農村からの撤退などという話とは無関係です。

清水 本当に不思議な話ですね。さらに言えば、そもそも「消滅可能性都市」というのも、ちょっと短絡的な話だと僕は思います。

藻谷 おそらく増田さんたちは、余りに自治体に危機感がないので、ショック療法に出たのでしょう。実際に豊島区などは、いま猛烈な勢いで動き出しましたから。でも「ここから先は消滅」なんて線は本当は存在しない。今のペースで行けば、日本全体から子供がいなくなるのが7~80年後。64歳以下が消えるのが100年後。日本人自身が消滅しかかっている状況なのです。

清水 そうです。東京こそが消滅可能性都市だという話なら、とてもよくわかります。

藻谷 それなのに何を勘違いしたのか、「農村を切り捨てれば、東京だけは生き残れる」という妄想に浸る人が出てきた。要するに、肥大化した脳みそが、「年老いて身体がうまく動かない。じゃあ身体を切り捨てて、脳みそだけで生き残ろう」って、首から下を切り離して、当然に即死してしまった、みたいな話です。

清水 ちょっと凄すぎる比喩だけど(笑)、本当にその通りだと思います。

地域再生の成功学(6)へつづく)

藻谷浩介(もたに・こうすけ)
(株)日本総合研究所調査部主席研究員
1964年、山口県生まれ。東京大学法学部卒。日本開発銀行(現・日本政策投資銀行)、米国コロンビア大学ビジネススクール留学等を経て、現職。地域振興について研究・著作・講演を行う。主な著書・共著に、『デフレの正体』、『里山資本主義』、『藻谷浩介対話集 しなやかな日本列島のつくりかた』、『和の国富論』、『藻谷浩介さん、経済成長がなければ僕たちは幸せになれないのでしょうか?』など。

清水義次(しみず・よしつぐ)
(株)アフタヌーンソサエティ代表取締役
1949年、山梨県生まれ。東京大学工学部都市工学科卒。1992年株式会社アフタヌーンソサエティを設立し、主に建築や都市・地域再生のプロデュースに携わっている。現在、公民連携事業機構代表理事、3331 Arts Chiyoda代表も兼任。著書に『リノベーションまちづくり 不動産事業でまちを再生する方法』がある。

2018年9月7日掲載

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