成毛眞『amazon』肴に「アマゾン」を語る(下)

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 AWS(アマゾンウェブサービス=アマゾンが提供するクラウドコンピューティングサービス)はすごい革命を起こしました。

 それまでのインターネットの仕組みは、例えば私がメールを見たければサーバーに聞いてみて、いいですよという許可があって見ることができるというのが基本で、会社内でのネットの仕組み、例えば経理システムとかも、会社内にあるサーバーでやり取りをして使うというのが今までのものでした。銀行のシステムもIBMとかが一生懸命に、何年も何百万円もかけて依頼元の会社のためだけにつくっていた、というのがこれまでの仕組みだった。

 ところがAWSは、世界の頭の上にクラウドを1個つくっておいて、それをそれぞれの会社、例えばうちは銀行のシステムが欲しいと言ったら、数十分で、しかもすごく安い料金でそれを用意してくれる。しかも、アメリカと日本で同じオーダーがあっても時差があるから、アメリカで使っているときは日本の分は使わなくていいとかが可能で、世界中でコストがカットできることもあるという、すごく革命的なものになりました。

ケーブルもサーバーも電気も自前で

 このクラウドコンピューティングを支えるための2つのコンポーネントがあって、1つはネットワークです。アマゾンもグーグルもマイクロソフトもソフトバンクもそうだと思いますが、海底ケーブルを合計何百本も持っている。日本から出ている、アマゾンが所有もしくは分割所有している海底ケーブルは、対アメリカが4本かな、それ以外に韓国に2本、中国に2本か3本ぐらいある。さらにアジア方面に何本とかで、全部で22~23本の海底ケーブルを持っているんです。分割所有もありますから、一緒にグーグルが持っていたりすることもあるんですが。

 つまりアマゾンやグーグルやマイクロソフトは、昔、NTTとかKDDIに通信料を払っていました。でもそれではもう全然足りない。ならば自分で通信会社を持ったほうがいい、通信設備持ったほうがいいということで、海底ケーブルを持ち始めています。

 コンポーネントのもう1つはサーバーです。サーバーがないとクラウドは成立しませんが、そのサーバーは世界中どこにあってもいいわけです、ケーブルでつながっていますから。ではサーバーを設置するのはどこがいいと思います?

 北の地域です。なぜ北か、理由は単純です。サーバーはものすごい熱を出します。その熱を冷却するためにとてつもないクーラーが必要になります。だから気候が寒ければ寒いほどいい。一番いいのはアイスランドとかですよね。

 もう1つの理由は、電気料金の問題。だからできるだけ寒くて電気料金が安いところがいいわけです。日本の電気料金どのぐらい高いか御存じですか。OECD(経済協力開発機構)諸国平均の2倍で、アメリカの3倍ぐらい。韓国の2倍。フランスから見ても2倍ぐらいだと思います。産業用ですらこの高さですから、民生用はもっと高くなってしまいます。日本はオーバークオリティーで、停電も100分の1秒瞬断みたいなものもなく、電気力のクオリティーがいいけれども高い。

 日本ではこのクソ暑い中で、コンピューターを社内で持っている。かつ電力料金が倍で、とりわけ銀行だとか、情報の塊みたいな業種でまだそれをやっていますが、それにはコストがかかります。なので、最近は多くのメガバンクも含めて、クラウドにどんどん移行しています。

 クラウドに移行すると次に何が起こるか。クラウドをやっている会社も、地球上にあまりにもサーバー多すぎて、どこの物理サーバーがプロセスを起こしているのかわからないんです。

 アマゾンに発注しているのは銀行とか普通の会社だけではなくて、アメリカのCIA(中央情報局)とか、国防総省などもある。アマゾンのAWS、マイクロソフトのアジュールも使っていますが、かなりいろんな会社、もしくは組織で使っているので膨大な計算量なんです。そのためには膨大なサーバーが要ります。今は1000万台ぐらいは持っているんでしょうね。

 物理サーバーを1000万台持つと何が起こるか。まずは電力を起こす必要がありますから、アメリカにあるリージョナルデータセンターの横に、自社の発電所を持っています。バックアップ発電所ではなくて本気の発電所ですよ。

 それから保有台数が1000万台ともなると、彼らも「あれ?」と思うわけです。もしかして、いちいちヒューレット・パッカードからサーバーを買うより、俺たちでつくったほうがよくないか、という話になって、ついに自分たちでサーバーをつくり始めました。こちらのほうが安いし、自分の好きなものをつくれる。

 それでも、CPU(中央演算処理装置)とかGPU(画像演算処理装置)はインテルなどから買っていたわけですが、それも途中で気が付くわけです、CPUも自分でつくったほうが安くないか、と。

 ですから、彼らが何をやっている会社かは本当にわからなくなっています。日本で言うと、ちょっと昔のKDDIプラスNEC・富士通プラス日立製作所プラスNTTデータプラス野村総合研究所みたいな感じ。アマゾンはそういう規模の会社になりつつあって、見ているだけも怖いですね。

クラウドのビッグスター

 アマゾンの売上高を見ると、AWSの割合は小さいですね(図1)。本とか家電とか売っている、見かけのアマゾンと比べると全然小さいですが、純利益的にはとんでもない数字を出している。

 アマゾンは利益だけで見ると、やはりITの会社なんです。普通の99%の人からすると、「ああ、楽天みたいな会社」と思う。でも全然違うITの会社だったりするんです。

 マイクロソフトは2014年にサティア・ナデラという人がCEO(最高経営責任者)になって、非常に調子が良くなった。データを見ると、マイクロソフトの株価はビル・ゲイツの時代に上がってきて、天井に達した瞬間に1円も上がらなくなってしまった。そしてナデラのときに再びガーンと上がる。なぜナデラ時代に株価が再上昇し始めたのか。

 Windowsに固執しないでクラウドを始めたからなんですね。今のところアメリカのIT業界では、少なくともマイクロソフトとアマゾンが、クラウドのツインビッグスターなわけです。

 クラウド業界のシェア。先ほどの見方で見るとすごいですね。エンジニアだったら、勤めるのはアマゾンのほうがいいかもしれないと思ったりしますが、シェアが50%近くなるとつらくなります。落とすことの恐怖のほうが、シェアを上げる恐怖より大きくなるんです。

広がる「プライム」の可能性

 今度は顧客管理の話です。アマゾンの顧客管理は、昔からプライムを使っています。非常に安くなるからという理由もありますが、もう1つはプライムを契約すると、一体この人たちはどれだけのサービスをつぎ込んでくるんだろうか、ということがわかるということがある。Spotify(音楽のストリーミング配信サービス)はSpotifyだけでおしまいになるけれども、プライムの場合はミュージック以外に、映画から何からあらゆるものをつぎ込んできて、顧客の関心の動向がすごくわかりやすいと見てプライム契約させている。

 そのプライムの会員の数、会員からの売上の金額ですが、日本はアメリカに比べて10分の1です。でもいわゆるコンピレーション的にはアメリカの3分の1ですから、高齢化しているとはいえ、4分の1ぐらいの大きさとすると、日本のプライム会員の規模は恐らく今の4倍ぐらいまで上がってくると思います。なぜ上がるのか、プライムの料金がどのくらいまで変化するだろうかというのを予測して、この本に書いています。

 ただアメリカの場合、プライムの年会費が日本円で1万円ちょっとほどで、日本が3900円ということでの違いもあります。アメリカもはじめは安くてどんどん上がっていきましたので、日本もたぶん上がるだろうと、この本に書いています。

 今後のポイントは、恐らくフリーコンテンツ、プライムの専用コンテンツがどのくらいまで伸びるかによるでしょう。アマゾンが映画を制作するために使ったお金とか、Netflix(動画配信サービス)が映画制作、動画制作のために使ったお金は、全テレビ業界を1社だけで全部抜くというすさまじい大きさになり始めていますから、あと5年ぐらいすると、アマゾンとNetflixの動画制作に使った予算は、全映画にまさるというような、すごいことになりそうですね。

 そうなると、映画はアマゾンかNetflixでしか面白い作品が出てこなくなるので、彼らはもちろん映画館で上映し始めるでしょうし、それが始まってくるとプライムにみんな移行してもおかしくないというわけで、プライスが上がっていくと思います。

 この間、HONZのメンバーでインド映画『バーフバリ 王の凱旋』を見に行ったんです。ただ映画館に行くのではなくカラオケボックスの1部屋を借りた。65インチのテレビがついているカラオケボックスに入って、それにMacBookを差してアマゾンから『バーフバリ』をダウンロードして、そのまま見る。あれはいいですね、大音量で見られますから。みんなタンバリンを持っている状態です。これは映画館ではできないことです。ものすごい大音量と全員タンバリン、そして全員酒をがんがん飲みながら、という映画大宴会をしたんですけど、あのときふと思いました、これ絶対うける。

 ただ、こういう仕掛けをアマゾンは今すぐやろうとはしないでしょう。プライム会員の制度がきちんと出来上がってきて、かつ映画のコンテンツがどんどん充足化して、独占とは言いませんが3割ぐらいのシェアを持った瞬間に、こういうサービスを始めてもおかしくなくなると思います。

「Amazon GO」は疑問符だが

 意外に知られていないんですが、アマゾンはすごくアパレルに力を入れています。アマゾンが、小売りに関して最も力入れているのは恐らくファッションです。日本はZOZOTOWNがすごく調子いいという感じなんでしょうが、彼らはアマゾンが最悪最低の競争相手になるだろうということに気がついていると思います。アマゾンはこの分野を伸ばすでしょうし、実際伸び始めています。

 Amazon GO(レジのない食料品店)は有名で、あらゆるメディアにいっぱい出てきました(その仕組みは図2参照)。本では批判的なことを書かないようにしましたが、これはそれほどすごくないんじゃないかという気がしています。僕は、Amazon GOに匹敵するすごさの小売りは、JRのキオスクのような店だと思う。あれ無人店舗ですよ、考えてみたら。何か商品を手に取って店員のおばちゃんに出したら、Suicaでピッとやっておしまいでしょう。あれ、全自動決済しているんですから。考えてみたら、店員たちは品物を店だししているわけです。Amazon GOも誰かが店だししなきゃいけない。ということは、キオスクのほうが無人度が高いんじゃないかと思ってしまう。

 それから、レジなしキャッシュなしということでは、クレジットカードの登録とか、アリババのアリペイといった中国のQRコードを使った電子決済がすごいという話が出てきていますよね。日本は負けた、とかいう人もいるんだけど、1回Suica使ったら、QRコードなんてやってられないですよ。SuicaとかPASMOでおしまいなのに、中国のようなQRコードにしたら、あれで地下鉄の人は大変なことになって、地下鉄の駅の改札を今の5倍ぐらいの規模にしないと無理でしょう。それを考えると、日本で中国のアリペイは成立しないでしょうし、無人コンビニも店だしがある以上は、基本、あんまり存在しにくいかもしれません。なので意外や意外、キオスクの延長線上、キオスクの扱い件数が大きいほうが、もしかしてその可能性があるのかもしれません。もうちょっと店舗の形をかえるとか。

 大体こんな感じのことを書いておりますが、今お話しした内容はざっくりとした説明でしかありませんので、それは本の中で確認していただくと面白いかなと思います。

成毛眞
中央大学卒業後、自動車部品メーカー、株式会社アスキーなどを経て、1986年マイクロソフト株式会社に入社。1991(平成3)年、同社代表取締役社長に就任。2000年に退社後、投資コンサルティング会社「インスパイア」を設立。さまざまなベンチャー企業の取締役・顧問、早稲田大学客員教授ほか、「おすすめ本」を紹介する「HONZ」代表を務める。著書に『本は10冊同時に読め!』『日本人の9割に英語はいらない』『就活に「日経」はいらない』『大人げない大人になれ!』『ビル・ゲイツとやり合うために仕方なく英語を練習しました。 成毛式「割り切り&手抜き」勉強法』など(写真©岡倉禎志)。

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