罹患者500万人に福音! 「アルツハイマー」を超音波で治療 5年以内をメドに実用化めざす
軽症の患者から
マウス実験での成功を受け、国からの支援も得られ、いよいよ、昨春、認知症患者の治療に向けて第一歩を踏み出すことになった。
「まず、人間の頭蓋骨のなかで、脳に超音波が届きやすい部分を探しました。その結果、最も薄い側頭骨から照射することにしました。また、脳の中央部で超音波の効果が現れるように、音波の強さの分布がどのように形成されるかなどの基礎的実験を重ねました」
そのうえで、日本のメーカー2社と一緒に、超音波治療装置の開発に取り組んだという。
そして苦労の末、完成したのが、“経頭蓋超音波治療装置”である。
「国の治験承認も得て、東北大学加齢医学研究所の荒井啓行教授の協力のもと、7月23日から、第1例目の患者の治験を開始しました。MMSEという認知症の検査法があるのですが、30点満点のうち10点未満だと重度の認知症です。まずはこの点数が20点以上26点未満の軽症のアルツハイマー病患者を対象としています。治験は2部構成で、第1部では主として安全性の検討、第2部では有効性と安全性を検討します」
超音波治療の実際の方法はどのようなものなのか。
「治療は、患者の左右の側頭部に“凸型振動子”を装着し、20分間のパルス波超音波照射を1日3回行います。第1部の治験では5例を対象としてこの治療を月、水、金と隔日で3回実施し、以後、3カ月間の経過観察をします」
その結果、安全性が確認できたら、来年1月から第2部の治験に進む。
「患者40名を20名ずつ2群に分け、片方には超音波治療を行い、もう片方は超音波を発射しないプラセボ治療を行います。合計6回、期間は1年半になる。最後は、500名前後の全国的な臨床治験で有効性・安全性を最終確認し、国に保険適用の申請をする予定です」
目下、下川教授のもとには治験希望者からの問い合わせが殺到しているという。
有効性・安全性が確認されれば、現在の治療では回復の見込めないアルツハイマー病患者にとっては、大きな福音になる。
実用化のメドは、5年以内。不治の病のアルツハイマー病に対して、安価で手軽に、しかも副作用のない革新的な治療法が世界に先駆けてわが国で実用化されることが期待されるのである。
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