罹患者500万人に福音! 「アルツハイマー」を超音波で治療 5年以内をメドに実用化めざす
罹患者500万人に福音! アルツハイマーを超音波で治す(2/2)
不治の病とされるアルツハイマー病。年々、患者は増え続け、いまや500万人にも上る。現代の医学では症状の進行緩和しかできなかったこの難病に、“超音波”を使う治療法が開発された。この7月より研究チームを率いて超音波治療法の臨床試験(治験)を開始した東北大学の下川宏明教授が解説する。
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「私は、15年に超音波治療法の新たな使い道として、認知症にも目を向けました。認知症の原因の一つとして脳循環障害があることが明らかになってきているからです。また、認知症薬の開発は、現在、かなり厳しい状況にあります。たとえば、フランスでは、8月から認知症薬はすべて保険適用外になりました」(下川教授)
要するに、現在の認知症薬では効果が十分ではないと結論付けられたからだという。
「その理由の一つは、血液脳関門の存在です。そもそも人間は血液に含まれる成分が、そのまま脳組織に届かないようにできている。進化の過程で、血液中の老廃物や毒性物質が大切な脳に直接到達しないように人間が獲得してきた特性です。そのために、認知症薬が効果を発揮できないのです」
しかし、超音波治療は、体外から脳に直に照射するため、血液脳関門による“壁”は全く関係ない。
「認知症の種類には、アルツハイマー病、脳血管性、レビー小体型などがあります。厚労省によると、患者数の内訳では、アルツハイマー病が約8割、脳血管性認知症が約2割を占めます。アルツハイマー病は、加齢に伴いアミロイドβという蛋白質が脳に溜まり、神経の働きを邪魔することで認知症になります。脳血管性は脳梗塞や脳出血を起こした後に発症する認知症です。現在、世界には約5千万人の認知症患者がいますが、毎年1千万人ずつ増えています。日本でも65歳以上の7人に1人が認知症ですが、2050年には5人に1人の時代になると言われています」
認知症薬としては、脳血管性向けは開発されておらず、アルツハイマー病用には4種類が日本では承認されている。
「その4種類の薬も、症状の改善薬に過ぎず、根本的に病気を治すものではありません。しかも、その改善さえ、十分ではありません。脳血管性の場合、脳細胞が死滅し、薬での回復が望めないので開発もされませんでした。ただ、最近の研究で分かってきたのは、死滅した脳組織の周囲に血流が低下しただけの、いわば“半死状態”の脳細胞があるということです」
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