アジア大会「女子レスリング」金メダルゼロの惨敗 原因は「栄和人」前監督の不在

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名伯楽の代わりはいない

 栄氏は冗談が好きだ。この関係者は「NTC(味の素ナショナルトレーニングセンター)の食堂でも、冗談の中にも厳しい言葉を織り交ぜながら選手の気持ちを掌握していた。そういうことが大きい」と語る。筆者が見た練習終了時のミーティングでは、ある男性コーチを指して「おい、このコーチとデキてるやつ、手上げてみろ」などと言ったりする。へとへとになっていた選手たちも顔を見合わせながら笑う。厳しい中にも若い女性の気持ちを掴む能力が高いのだ。

 前述の関係者は「栄氏は女子選手とも下ネタの話もできるから、選手は生理のことなども訴えやすい。日頃のそういうコミュニケーションも大きいのです。新たなコーチは、栄さんの教え子に本気で怒れないようなこともあるのでしょうが、このままでは難しい」と危惧する。さらに「現役時代、五輪のメダルこそ逃しましたが、世界選手権では3位になっている栄さんの技術・知識は飛び抜けて高く、セコンドでもただ『頑張れ』とか言っているのではなく、『腕を抜け』とか的確で具体的な指示をしているんです。ああいう人は簡単には見つかりませんよ」と打ち明ける。

 全日本のあるコーチは「『栄さんの不在は関係ない』と選手たちがマスコミ取材に盛んに言ってるけど、本音だろうか。そう言わなくてはいけないように思っているのでは。みんな、しんどそうな顔に見えた」と話す。

 監督を解任した至学館大学の谷岡郁子学長(64)は「明治杯で栄監督が試合を見ずに食事に行ってしまったことなどで選手の気持ちが離れた」と語っている。だが、選手は呆れたかもしれないが、それで本当に離れるとは思えない。谷岡氏は世間の批判から大学を守る手前、そういうことにしないと困るのだろう。

 東京五輪での伊調5連覇を目玉にしたく、彼女と男性コーチにパワハラをしたとの告発を受けて、不世出の名伯楽を一方的に追い落としてしまったレスリング協会に明日があるとは思えない。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」「警察の犯罪」「検察に、殺される」「ルポ 原発難民」など。

週刊新潮WEB取材班

2018年8月28日掲載

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