驚異の視力6000!「アルマ望遠鏡」が迫る「惑星誕生」の謎

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 130億年前と言えば、宇宙が誕生してから8億年後のこと。もちろん地球も太陽もまだ存在していない。そんな遠い昔へ行ける「タイムマシン」があったら……。

 南米チリ・アタカマ砂漠の高地に建設された「アルマ」は、世界最大級かつ史上最高性能の電波望遠鏡だ。66台のパラボラアンテナを1つの巨大アンテナとして機能させることで、「視力6000」に相当する驚異的な解像力と桁違いの感度が実現。以前は観測不可能だった130億光年彼方まで観測することができる。

 2001年に日本の国立天文台と米欧の研究機関が建設プロジェクトを発足させ、22カ国・地域が参加のうえ、2013年に完成。本格的な科学観測が始まった。

 電波望遠鏡の特徴は、光学望遠鏡では捉えられない冷たく暗い世界を、それが発する電波を通して見られること。たとえば、マイナス250度という「星の材料」だ。新たな星は、以前に消滅した別の星の塵やガス、つまり残骸から生まれる。その残骸を「アルマ」で見たら、一体何が分かったのか。

 日本科学未来館で7月22日、国立天文台の長谷川哲夫教授がトークセッションを行った。チリに8年駐在して「アルマ」の建設を率いた彼が語る「アルマの開く天文学の新時代」とは――。

ガスの円盤から地球が……

 アルマ望遠鏡はそれまで私たちが使っていた望遠鏡に比べると、細かいところを見る「解像力」と微弱な電波を捉えられる「感度」が桁違いに良くなっています。

 もし、みなさんの目が10倍よく見えるようになったら、どう思いますか? 世界の天文学は今、そういう状態なんです。見るもの見るもの、すべてが発見。今まで観測してきた天体でも、アルマで見直してみると、「え!?こうなっていたの!?」という驚きの連続なんです。 

 中でも、特に「惑星の誕生」という分野がとても面白くなってきているところなので、お話ししますね。

 そのために、まず太陽系を見てみようと思います。水、金、地、火の内側の4つまでは岩石の惑星で、木星と土星はガスの惑星。ガスの塊なので地面がありません。それから天王星と海王星は氷の惑星で、こう見るとパターンがあるでしょ。

 ここに何か秘密が隠れているに違いないということで、1970年代から80年代にかけて、太陽系がどのようにして生まれたのかという理論的研究が非常に活発に行われました。日本でも京都大学の林忠四郎先生の研究室を中心に行われ、太陽系形成の「標準モデル」と呼ばれるものがつくられたんですね。

 太陽のような恒星が誕生すると、その周りにガスの円盤ができ、その中で岩石の塊のようなものが集まって合体し、それが成長していって地球のような岩石の惑星ができた。その外側には、周りのガスが降り積もってガスの惑星ができ、さらにその外側には周りの氷が降り積もって氷の惑星ができた、という物語です。今では教科書にも載っているほど広く受け入れられているんですけれども、実際はどうなんでしょうか。

「標準」じゃなかった太陽系

 1980年代には惑星を持つ星が太陽しか見つかっていなかったので、標準モデルは私たちの太陽系だけを見て作られたシナリオでした。

 ところが、今から23年前に衝撃的な発見がありました。惑星があると、その重力の影響で中心の星が少し揺れるんですが、「ペガサス座51番星」の動きを見ていたら、まさに揺れていた。秒速50メートル、つまり時速180キロメートルで、行ったり来たりしていたんです。これが惑星があることの証拠になり、太陽系の他に惑星が見つかった最初のケースになりました。

 で、この揺れの振幅から、惑星の重さを計算したら、だいたい木星の半分だった。ところが公転周期は、木星が12年なのに対し、この惑星はたったの4日。これには私もびっくりしました。太陽系における水星よりも中心に近いところで、大きい星がブンブン回っている。全然、太陽系と違いますね。

 これを機に、次々と惑星が見つかり出しました。たとえば、「アンドロメタ座イプシロン星」という星の周りでは、質量が木星の約半分で周期が4.6日という惑星が近くをブンブン回っていたり、地球の軌道と同じくらいのところを240日かけて回っているのに、質量が木星の9倍という惑星もある。地球の300倍もある木星の、そのまた9倍ですよ。さらに、それよりも重い木星の24倍という惑星が3.5年かかって回っている。

 こんな具合にですね、太陽系と全然似てないじゃないか、太陽系が宇宙の標準だと思っていたら大間違いだ、ということになった。観測が進むにつれて次々に色んな惑星が見つかり、3日前の時点で4000を超える惑星が確認されています。

「原始惑星系円盤」にあった「溝」

 なぜこのような多様な惑星系が生まれるのか、疑問ですよね。

 改めて恒星がどのようにして誕生するかお話しすると、死んだ星の残骸(ガスや塵)が冷えて雲になり、その雲がだんだん自分の重力で縮み、真ん中に星をつくる。周りの雲から真ん中の星に物が落ちてくるんです。その結果、最初は質量がゼロだった星が、だんだん質量が大きくなっていき、あるところになると中心で核融合反応が起き始めます。それが星の誕生です。

 ところが星に向かってガスが落ちていくその時に、まっすぐ落ちていくということは実はできません。ほんの僅かでも回転する動きがあると、「角運動量の保存」という物理法則によって縮むにつれて回転が速くなり、速くなると遠心力で円盤ができる。星は周りにガスの円盤を伴いながらできていくわけです。

 これを「原始惑星系円盤」と言うのですが、「アルマ」で見たらどうだったか、お教えしましょう。

「アルマ」で「おうし座HL星」という生まれてから100万年くらいの星を見ました。100万年と言うと、長いと思うでしょうが、宇宙の時間の物差しで測ると、もの凄い若い。太陽の年齢は今、46億年です。46億年に比べると100万年は一瞬でしょ。太陽の年齢の5000分の1。生まれたばかり、もしくは誕生途中と言ってもいいかもしれない。

 その星の周りをアルマ望遠鏡で見たら、原始惑星系円盤があり、そこに暗くなっている部分があった。私たちは「溝」と呼んでいます。コンピューターシミュレーションでこういう溝ができるだろうことは予想されていたんですが、本当に綺麗に見えちゃったので、びっくりしました。

 さらに「おうし座HL星」だけでなく、「うみへび座TW星」、「オリオン座」の星、「へびつかい座」の星と、次々に溝が見つかった。 

 この原因は何かという色々な可能性が研究されているんですが、最有力説は、ここにもうすでに惑星が誕生していて、その惑星が周りの物質を吸い込んだ結果、そこに物がなくなって溝になっている、というもの。

説明のつかない「動きのズレ」

 今年6月にこんな論文が出ました。私も感激したんですが、「いて座HD163296」という星の周りに、やはり溝の入った円盤が見つかり、その円盤内のガスの動きを「アルマ」で調べたら、不思議なズレが見つかった。このズレは、そこに何か重たいものがないと説明がつきませんでした。どのくらいの重さのものがあるかというと、木星の2倍。つまり、惑星そのものは見えないものの、そこに木星の2倍の質量をもった惑星が存在しないと説明のつかないズレ。ほぼ間違いなく円盤の溝に惑星ができているという証拠なんですね。

 そうするとですね、標準モデルと合わないところが出てくるんです。何が1番合わないかというと、時間。標準モデルですと、惑星の形成までに数千万年から1億年くらいの時間が必要とされているんですが、「いて座HD163296 」の年齢は500万年で、1桁違う。モデルの大幅な修正や新しいモデルの構築が必要になっているんです。

 これが科学そのものなんですね。こうやってモデルをつくって何とか分かろうとするんだけれども、観測が一歩進むと間違いだったことが分かり、また新しいモデルをつくって観測と照らし合わせる。それを繰り返し、科学は前に進んでいく。まさに今、その瞬間が来ているというわけなんです。

発見された遺伝子とタンパク質の素

 じゃあ、こういう惑星にはどういう物質があるのか。電波望遠鏡は、そこにどういう物質があるかを突き止めるのが得意なんです。どうしてかというと、物質によって決まった波長の電波を出すから。たとえば、一酸化炭素だったら1.3ミリの電波を出すと、物理法則で決まっている。なので、1.3ミリの電波を受けたら、あそこには一酸化炭素があるなと決められるわけですね。

 その原理を使って、「へびつかい座」の原始惑星系円盤を観測したら、グリコール・アルデヒドという糖が見つかったんです。糖は体をつくっている大事な成分ですね。特に生命にとって大事な遺伝子は螺旋状をしていますが、その骨格をつくっているのが糖。その糖の最も単純な形が、惑星の生まれる場所で見つかっている。また、タンパク質のもとになるアミノ酸の生成に関わり、窒素や酸素を含むイソチアン酸メチルという分子も見つかっています。

 生命とは何かというのは難しい問題ですが、地球の生命を基準に大事なものを2つ挙げるとすれば、1つは遺伝子だし、もう1つはタンパク質。その2つのもとになっているものが、すでに見つかってきている。

 太陽系の外のいろんな惑星の原始惑星系円盤が見つかり、惑星系形成理論の見直しが進行中だし、生命の材料となる分子が原始惑星系円盤の中に次々に見つかって来ている。  やがて私たちがどう生まれたかというだけでなく、あの星の生命はどうして生まれたのか、この星の生命とはどう違うのか、という宇宙における生命を科学的に研究する時代が、やってくるのでしょう。

 日本科学未来館5階の「フロンティアラボ」では現在、「アルマ」の常設展が開かれている。国立天文台が自作したという受信機や建設地を探していた時のノートなど、貴重な資料に出会える。

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Foresight 2018年8月24日掲載

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