北朝鮮で滋賀県の男性が拘束 2年間抑留された元“日本人スパイ”が今後を予測
日経新聞にも“内通者”
機密情報が恐ろしいほど筒抜けになっていたわけだが、さらに重要なのは杉嶋氏も基本的には観光ツアーに参加して写真を撮っていたことだろう。
映画『007』シリーズが描くようなスパイ行為が非現実的なものであることは言うまでもないが、ジャーナリストの視点による記録は、諜報機関にとっても大きな情報源になるのも事実だ。
「滋賀県の男性が私と同じように、内調や公安庁から情報提供の依頼をされていたかは分かりません。ただ、映像クリエイターという肩書を考えれば、北朝鮮での撮影に意欲をかき立てられた可能性はあると思います。希少性の高い動画や写真は、当然ながら多くの人の関心を集めます。そして、ある種のプロ意識を持って撮影すると、非常に目立ってしまうことは、私も拘束時の取り調べで痛感させられました」
普通の観光客が撮影する姿と、杉嶋氏の様子は異なっていた。たちまち北朝鮮側は杉嶋氏をマークし、じっくりと素性を洗っていく。
「取り調べで担当官は私に『あなたが2回目に訪朝した時から、我々はあなたに関する膨大な記録を取っていました』と明かしました。内調や公安の内通者、はたまた日経の記者からも私に関する情報を入手し、私の家にも留守中に侵入しました。そして私の机に何が置いているかまで把握していたんです。滋賀県の男性も前回の入国で目をつけられ、今回の再入国で逮捕に踏み切ったのかもしれません」
杉嶋氏が解放されたのは2002年2月。その7か月後に当時首相だった小泉純一郎氏(76)が北朝鮮を電撃訪問して金正日(1941〜2011)と会談を行った。ここで北朝鮮は12人の日本人を拉致したことを認めている。
北朝鮮が杉嶋氏を拘束した主な理由は2つ。1つ目は日朝交渉を有利に進めるための“人質カード”として活用しようとしたのであり、2つ目は身代金だった。そして、滋賀県の男性に関しても、同じ狙いを持っている可能性は考えられるという。
「現在、日朝会談の実現に向け、実務者レベルの協議段階だとされています。しかし拉致問題など、両国の主張が大きくかけ離れている事案が少なくありません。北朝鮮が自分たちの要求を無理強いさせようと、滋賀県の男性を脅迫材料に使うというシナリオは荒唐無稽ではないはずです。また身代金も、彼らは『保釈金』とか『立て替えた滞在費用の弁済』などと、もっともらしい理屈をつけて要求してきます」
先の安全保障委員会で、杉嶋氏は帰国後に外務省の審議官に身代金の確認を取ったことを証言している。速記録にカギカッコなどを挿入するなどの修正を行った。
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