元最高幹部が明かす 「高倉健」と「山口組」の知られざる交流

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純金のお鈴

 スター然としたそぶりをみせない高倉と親分ぶらない大石氏は、ことのほかウマが合ったという。

 当時、映画のオールナイト興行にスターが足を運び、舞台に花を添えることがあった。高倉健も大石氏の地元の映画館の舞台に立ち、挨拶をすませたのだが……。

「せっかく生バンドの準備も揃っていたので、健さんに一曲披露してよと頼んだら、人前で歌を唱うことを極度に毛嫌いしていた健さんが『網走番外地』を唱ってくれました。それも1番を唱い終わったあと、まちがえてまた1番の歌詞を唱い始めた。歌の途中で気づいて、律儀にまた最初からやり直し。お客さんは大喝采でしたな」

 高倉健が初めてテレビコマーシャルに出たと話題を呼んだアサヒビールの出演交渉にも、大石氏の助力があった。

 東映のワンマン社長として名を馳せた大川博からの度重なる出演依頼にも、テレビ嫌いの高倉は首を縦にふらなかった。そこで、大川社長は懇意の大石氏に出演要請の仲介を依頼する。大石氏の意を尽くした説得に折れた高倉は、しぶしぶ出演を受け入れる。

「そのすぐあとに務め(服役)にいくことになった若い衆のために、健さんはギャラの一部を私の方に差し出した。映画出演での正当な報酬ではないとの想いからだったのか。これには私の方が面食らってさすがに遠慮しましたわ」(同)

 筋目を守り自らを律する高倉健の厳しさは、任侠界の重鎮を驚かせるに十分だったのだ。

 高倉は、礼節だけでなく信仰にも厚いことで知られ、比叡山延暦寺との関係はつとに有名である。

 だが、大石氏によると、出世作となった「網走番外地」のヒット祈願のために長野・善光寺に参拝して以来、高倉はゆかりの知人に、折に触れ、そのお札(ふだ)を送ることを習慣としていたという。

「毎年お札を送る十数人の郵送リストがあるんです。その返礼として、私の信心する香川・金刀比羅宮(ことひらぐう)のお札を健さんに送っていました」(同)

東京から岡山まで車を走らせ…

 もとより、芸能界は地方興行を通してヤクザと切っても切れない関係にあった時代で、高倉のみが山口組と浅からぬ縁をもったわけではない。

「芸能人の多くは、組織の庇護や個人的な後援といった実利的な理由から、親分衆とつきあうことが多かった」(前出の芸能関係者)

 人気稼業ゆえの苦労を、高倉とファンを二分した菅原文太も味わっていた。

 東映実録映画全盛の頃の目撃談を、元神戸芸能社関係者が明かす。

「神戸ポートピアの高級ホテルでのことです。東映実録映画の看板スターとなっていた菅原さんに酒席を共にさせようと、たまたまホテルの上階と下階に宿泊した山口組の大物幹部同士が取り合いになった。その幹部2人は山口組の若頭を争うほどのライバル関係にあり、ふだんから仲がよくなかった。“お前はあっちに挨拶せんでええ”と双方からスゴまれ窮地に陥った菅原さんは、“田岡親分の倅さん(前出の満氏)の用事があるもので……”と言って、急場を凌いだんです」

 他の俳優も大同小異、力のある極道者とのつきあいをおろそかにしなかった時代である。だが、当時、高倉だけはヤクザとのつきあいに一線を画していた。

 再び大石氏が口を開く。

「ことあるごとに“他の暴力団(員)を紹介しないでくださいよ”と言うんです。実利を求めず、精神的なつながりを重んじる健さんの姿勢は、並みいるタレントのなかでは極めてストイックでした」

 任侠の徒以上に筋目を重んじる高倉に、現職の方が唸らされることも一再ではなかった。

「健さんにもかわいがってもらった私の長男が客死した後のこと。私の不在中、東京から一人で車を走らせて突然、岡山の自宅を訪れた健さんは、特別に誂えさせた純金のお鈴(りん)を仏壇に供えて、長男のために焼香してくれたそうです。部屋住みがあっけにとられている間に、ものの10分たらずで元来た道を帰ってしまった。あとで見ると、お鈴の裏に私の家紋が刻まれていたんですよ」(同)

 所用で自宅を留守にしていた大石氏が部屋住みの急報を受け、電話で、「なぜ連絡をくれなかった」と問いただすと、「健さんは、“親分に会いに行ったんじゃない、自分の思いを届けたかっただけ”と」(同)

 11年に起きた「東日本大震災」の発生直後にも、安否を心配した高倉は、携帯用避難用具一式が詰まったリュックを抱えて大石氏の都内の自宅をひょっこり訪ねた。

「カタギで男が惚れる男として、健さん以上の人はおりませんな」

 元山口組最高幹部にそうまで言わしめる高倉と山口組の奇縁の原点は、大石氏の親分にあたる田岡三代目と高倉の出会いに端を発する。

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