元最高幹部が明かす 「高倉健」と「山口組」の知られざる交流

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 多くの伝説を残して世を去った俳優・高倉健(享年83)と、日本最大の暴力団には浅からぬ縁があった。「週刊新潮」では、没後半年にあたる2015年5月21日号で、ジャーナリスト・山川光彦氏の寄稿による高倉と山口組にまつわる数々の秘話を掲載した。昭和映画史の知られざる内幕をあらためてご紹介しよう――。(※データは本誌掲載時のもの)

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 83年の生涯を「国民的映画俳優」として演じ切った高倉健(本名・小田剛一)が逝って半年が経つ。来る6月にも「八甲田山」「海峡」のロケでゆかりのある青森の県立美術館で異例の特集上映が予定されるなど、いまだその人気が衰えることはない。

 死去直後には、長嶋茂雄をはじめ各界からその死を悼む悼辞がよせられたのは記憶に新しい。だが、国民的スターへの哀悼の想いを胸に、その心中を表明する場を与えられなかった人たちもいる。

 裏社会の住人たちである。なかでも、実在のモデルに取材したヤクザ映画を量産した東映の看板スターだった高倉と、日本最大の暴力団組織・山口組の縁は浅からぬものがあった。

 当時を知る芸能関係者が解説する。

「東映入社後、しばらく芽が出なかった高倉健は、時代劇などで人気絶頂の美空ひばりらの相手役を務めることも多かった。ひばりの後見役が、山口組中興の祖・田岡一雄三代目だったのは周知の事実です。当時、田岡氏は日本有数の芸能プロ『神戸芸能社』を率い、ひばり以外にも鶴田浩二、清川虹子、ディック・ミネ、若山富三郎、伴淳三郎ら名だたるタレントと公私にわたる関係を築いていた」

 ひばりと大の仲良しだった江利チエミと高倉健は1959年に結婚。婚礼の宴には田岡氏も参列した。後年、田岡氏の令息である故・田岡満氏の結婚式には、寺島純子、梅宮辰夫らに混じって高倉の姿もあった。ヤクザと芸能人の垣根が今からは想像もできないほど低かった時代である。

 田岡三代目と高倉の宿縁については後述するが、もう一人、高倉健と終世にわたる厚情を交わした元親分がいる。

健さんの人間性の一端を知ってもらえるなら

 泣く子も黙る山口組の組織中枢メンバーである「舎弟頭補佐」として執行部の一翼を担い、六代目体制では、重鎮である「顧問」として活躍。2012年に引退した大石誉夫(たかお)氏である。

 愛媛・新居浜から岡山に進出した大石氏は地元組織との抗争を経て地盤を確立。山口組直参として大石組を旗揚げし、長らく西日本の要衝で、他団体に睨みを利かせてきた。武闘派の一面、経済界から芸能界にいたる幅広い人脈を築き上げ、「経済の大石」としてその名を知られた元大物親分だ。

 一線から身を引き、現在は都内で家族とひっそり余生を過ごしている大石氏こそ、田岡三代目亡き後もその衣鉢を継ぎ、高倉健との契りを交わしつづけた人物である。

 インタビューに答えた大石氏は言葉を慎重に選びながら、こう切り出した。

「元ヤクザ者の私が健さんとの関係を明かすことには少なからず躊躇があったことは確かです。まして、13年に文化勲章を受章して以降は私との交友歴が足を引っ張るのではないかと、なおさら神経を尖らせてきたものです。ですが、(没後半年を経て)総理大臣であれヤクザであれ、つきあう相手を肩書きで差別することがなかった健さんの人間性の一端を知ってもらえるなら私の証言も無駄ではないのではないかと、思いなおしたんです」

 2人の交友は、東京オリンピック前年の63年に遡る。翌年の大石組創設を控え昇竜の勢いにあった大石氏の新居祝いに、まだ任侠スターとして売り出す前の高倉がひょっこり顔を出したのだ。

 大石氏が述懐する。

「田岡親分の後を追うように興行に手を広げていた私に挨拶するように、興行関係者、もしくは田岡親分本人から勧めがあったのかもしれませんね。2歳違いと年齢も近く、あけっぴろげで物怖じしない健さんに、立場を超えていっぺんに魅せられました

 一方の高倉も、大石氏の本拠・岡山周辺に撮影などの用がある度に訪ねてくるようになり、頻繁に親交を重ねることになった。

「健さんが宿泊するロケ地のホテルをその地の(山口組系)親分を通じて手配することもあった。あるとき、(愛媛県今治での)ロケが終わってホテルの自室に帰った健さんの部屋から悲鳴が聞こえてくるんです。それも“助けてくれ! 出してくれ!”って哀願するような声で、部屋の戸をドンドン叩いてね。いつもタレントにするように女性を部屋にあてがっただけなんですが、潔癖な健さんはまったく受け付けないんです」(大石氏)

 江利チエミと高倉健の揺るぎない夫婦愛をうかがわせる逸話ではあるまいか。

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