口いっぱいほおばると美味しく感じる官能的な理由
猛暑で食欲不振の人がいてもテレビでは相変わらず根強い人気なのがグルメネタ。毎日どこかで「人気店」「行列店」が紹介されているといっても過言ではありません。夏の場合、かき氷や焼き肉あたりが取り上げられることが多いようです。
人気のあるメニュー、店には、いくつかの共通項があります。「美味しい」は当然のこととしても、「安い」「ボリュームがある」「体によさそう」等々。
意外と見逃されがちなのは「ほおばる快感」かもしれません。かき氷と焼き肉はまったく違う食べ物ですが、どちらも「口いっぱいにほおばった時の満足感」が大好き、という人は珍しくないはずです(焼き肉の場合は、ご飯と一緒に、ということかもしれませんが)。
なぜヒトは口いっぱいにほおばると、なんだか嬉しくなるのでしょうか。
「飢えていた時代を思い出して嬉しくなる」という理由もあるのかもしれませんが、もう少し科学的な説明もなされています。
味覚の科学を解説した『コクと旨味の秘密』(伏木亨・著)には、口の中の細胞の果たす役割について興味深い話が紹介されていました。同書では岩永敏彦・北海道大学教授の研究を紹介しながら、この「口の中の快感」の秘密を明かしています。
以下、同書をもとに解説してみましょう。
多くの人が「濃厚なタレ」「煮詰めたソース」のように粘度の高いものにはそれだけでコクを感じます。これは食感と関係しています。
さて、私たちの口の中の上あごの内側部分、舌を上に上げたときにさわるところを「軟口蓋」といいます。ここが食感に対して特に敏感な部分だ、というのは実感としてわかりやすいことでしょう。
食感のような物理的な刺激を化学的な信号に変換する役目を担っているのが「セロトニン産生細胞」だと見られています。この細胞は物理的刺激に感じてセロトニンという化学物質を放出するのです。
この細胞は全身に存在しています。物理的刺激に対して化学物質を放出する、ということは、「触るとくすぐったい」といった敏感な反応を示してしまうということです。
そして人体の中でこの細胞が最も密に存在するところは男性生殖器の表面だそうです。
ただ、実はそれに負けないぐらい濃密に存在する場所があります。それがさきほど触れた「軟口蓋」、つまり口の中なのです。
「舌を口の中で上に延ばして軟口蓋に触れると、くすぐったく感じるはずです。敏感な証拠です(中略)
口の中は、生殖器に匹敵するほど物理的な刺激に敏感な器官なのです。これをフルに動員してわれわれは料理の細やかなおいしさを堪能しています。だから濃厚なソースの食感をコクとして感知できるのです」(同書より)
ほおばるのは嬉しい、というのは食いしん坊だけの習性ではなく、人類に共通したものだったということです。