年1回の注射で「高血圧」治療! 服薬の煩わしさから解放する「新型ワクチン」が治験中

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オーストラリアでの治験

 ちなみに、抗体の代わりにアンジオテンシンIIの作用を抑える薬が、アンジオテンシン受容体拮抗薬、通称ARB。高血圧の人々に一番売れている、いわゆる降圧剤です。副作用もほとんどなく、脳卒中や心筋梗塞などへの防護作用もあります。しかも骨粗鬆症をはじめとする、さまざまな老化関連疾患の予防でも注目され、一時は1兆円近い売れ行きでした。

 そんな薬も、毎日の服用が決まり。“飲み忘れ”ができません。どれだけの人が“脱落”するかは先の通り、1年で半分近く、4年で30%に減ってしまうのです。ならば、服薬ではなくワクチンでやろうという考え方が出るのは自然な流れでしょう。

 話を実験に戻しますと、私たちが高血圧DNAワクチンを実験用の高血圧マウスとサルに投与したところ、血圧抑制効果が半年から1年、継続することが確認されました。副作用もなし。

 この実験結果を受けて、オーストラリアでヒトに対する治験をはじめたわけです。高血圧患者24人を対象に、1年間をメドに進めています。ワクチンの濃度を高と低の2群に分け、治療効果のないプラセボ薬を投与するグループもある。

 ワクチンを注射し、1カ月後にもう一度、注射します。そのあとは2、4、6カ月目で、血圧の変化と効果の持続期間などを確認するのです。

 開始からまだ3カ月。なので、ワクチンの効果を見極められる段階にはありません。いまお伝えできるのは、大きな問題もなく、順調にいっているということだけです。

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(2)へつづく

森下竜一(もりした・りゅういち)
大阪大学臨床遺伝子治療学教授。1987年大阪大学医学部卒業。米国スタンフォード大学研究員などを経て2003年大阪大大学院医学系研究科の臨床遺伝子治療学教授に就任。大阪大で研究グループを組み、バイオベンチャー「アンジェスMG」とともにワクチン開発を進めている。

週刊新潮 2018年7月12日号掲載

特集「年1回の接種で効果持続 『新型ワクチン』で『高血圧』治療ができる!――森下竜一(大阪大学臨床遺伝子治療学教授)」より

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