意外なアノ人もその“犯人”? 不幸な過去を繰り返さないために〈誰が「国宝」を流出させたか〉

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運慶作の“流出未遂”も…

 ひとまとまりの日本美術コレクションが散逸するのならば、たとえ海外であれ一括して所蔵され公開されるほうが、鑑賞者にとっても作品にとっても幸せだろう。また、海外に存在する日本美術の素晴らしいコレクションは、良き日本文化を海外の人々に伝えるうえでも意義がある。

 もっとも、だからと言って日本美術の海外流出を無条件で支持するのは見当違いだろう。美に無関心だと、本来日本にあるべき美術品までもが他の国に流出してしまう。琳派の名品や多くの浮世絵が、日本人の美に対する理解の欠如から海外に持ち出された。審美眼を高めることを怠れば、こうした不幸な過去が繰り返されることにもなる。

 また、いくら具眼であっても、手元不如意では、美術品の海外流出はやはり止められない。この点は《吉備大臣入唐絵巻(きびだいじんにっとうえまき)》や川崎正蔵のコレクションが雄弁に物語っている。近年(2008年)では、運慶作《大日如来坐像》がNYのオークションにかけられ、宗教団体・真如苑がアメリカ人資産家と激しい競り合いを演じて、日本の美術品としては当時最高の約14億4千万円で落札し、寸前のところで海外流出を免れるという事件もあった。いずれにしても、経済的な劣化は、文化の劣化を招きかねない。この点を肝に銘じるべきであろう。

中野明(なかの・あきら)
ノンフィクション作家。1962年滋賀県生まれ。立命館大学文学部哲学科卒。同志社大学理工学部非常勤講師。情報通信関係、経済経営関係、歴史分野の著書を多数執筆。近著に『IT全史』『流出した日本美術の至宝』ほか。

週刊新潮 2018年7月26日号掲載

特別読物「至宝の絵巻が海外に… 誰が『国宝』を流出させたか――中野明(ノンフィクション作家)」より

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