“いい大学に行くため”だけではない「中学受験」のメリット 高校受験を回避する意味

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高校受験を回避する意味

 私立・国立を受けるつもりなら小学4年生から、公立中高一貫校を受ける場合でも5年生から徐々に受験勉強を始めるのがスタンダードだ。ということは、「12歳の選択」をするために10歳ごろには塾に通い始めるという決断をしなければいけない。それまでに、12歳における選択肢のそれぞれの意味を理解し、どんな学校で思春期を過ごすのかを決めておかなければいけないわけだ。

 4つの選択に共通するのは、高校受験を回避できること。

 15歳の時点で同世代が一斉に受験競争を行うのは、少なくとも先進国の中では珍しい。日本の他には中国、韓国、シンガポールなどの東アジアにユニークな進学システムである。小学校を初等教育、大学を高等教育と呼び、その間の5〜6年の期間の教育を中等教育と呼んでひとまとめに考えるのが、世界標準の教育学での常識だ。子供の発達段階を考えたとき、この時期はちょうど思春期にあたり、14〜15歳の反抗期を頂点とした発達の山をひとまとまりとしてとらえるのだ。

 たとえば映画「ハリー・ポッター」の舞台である「ホグワーツ」という学校は5年制の中等教育学校だ。日本の中高一貫校とほぼ同じ。それがイギリスで大学までいくことを前提とした場合のオーソドックスな進学ルートである。

 フランスでも前期中等教育のコレージュと後期中等教育のリセの間には、いわゆる高校入試はない。ドイツのギムナジウムは、日本の中高生にあたる期間に連続した中等教育を行う学校だ。アメリカでは州によって中学校と高校が分かれているが、その場合においても日本のような高校受験のしくみはなく、むしろ日本の連携型公立中高一貫校のしくみに似ている。

 日本でも戦前まで「中学校」といえば、13〜17歳の5年間の教育を指すものだった。先述のイギリスの制度を真似したものだ。ところが戦後、前期中等教育のみが義務教育化され、後期中等教育が「新制高校」として切り離された。中等教育5年間の全課程を義務教育化したかったのだが、予算が足りなかったからだ。このとき日本の中等教育は真ん中で分断されてしまった。

 14〜15歳の反抗期は、子供が大人の価値観に対して必死に抗う時期。映画「スタンド・バイ・ミー」に描かれているように、仲間とともにたくさんの馬鹿げたことをして、たくさんの冒険に繰り出し、たくさんの人に会い、世の中を知り、自分を知る時期だ。極論すれば、紙と鉛筆で勉強している場合ではない。高校受験勉強と反抗期の両立は難しい。

 高校受験勉強の圧力のもとでも、大概の子供たちは勉強もスポーツも人間関係もバランスよくこなし、それなりに立ち振る舞うことができるが、一部にはこの時期に親子関係をこじらせてしまったり、大人社会への不信感を強めてしまったり、逆に自己肯定感を下げてしまったりする子供もいる。この時点で表面的には問題を起こさなくても、無意識のうちに大人が望む「いい子」として振る舞い続ける癖がついてしまって、自分でも自覚の難しい生き苦しさを抱えてしまうこともある。

 中学受験をするというと、日本ではいい大学に行くためだととらえられがちだが、本来的には、反抗期における大人社会への抵抗や中だるみを十分にできる環境を手に入れるという意味があるのだ。

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(2)へつづく

おおたとしまさ
育児・教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。麻布中高卒、東京外国語大中退、上智大卒。リクルートから独立後、教育誌等のデスクや監修を歴任。中高教員免許を持ち、私立小での教員経験もある。『ルポ塾歴社会』など著書多数。

週刊新潮 2018年3月22日号掲載

特別読物「人生の岐路は12歳! 『公立中学』か『中高一貫校』か『大学付属』か 我が子を進学させるべきはどっち?――おおたとしまさ(育児・教育ジャーナリスト)」より

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