世界で熱望される〈生きがい〉はなぜ日本で生まれたか――大相撲に見るユニークさ
ずっと続けられる相撲
外国から見れば、そこにユニークな価値があると思われるものでも、自分たちにとっては、空気のように当たり前になっていることが少なくない。
〈生きがい〉はまさにそれで、今回の本を書く際にも、私たちにとって無意識の前提になってしまっていることを、いかに掘り起こすかに心を砕いた。
そんな中、改めて気づいた日本のユニークさもある。
例えば、大相撲。
今や、訪日観光客の間で大相撲は大ブームになっており、両国国技館には、たくさんの外国人が詰めかけている。そんな中、日本人だからといって大相撲のことをすべて知っているかというと、そうとは限らない。
大相撲が、実力に関係なく〈生きがい〉を見出せる舞台であることは、もっと知られて良いことだろう。
相撲の世界で出世するのはかなり難しく、入門した力士のうち、10人に1人程度しか十両以上の「関取」にはなれない。他の力士たちは、場所中ほぼ2日に1回の取組をして、後は付け人などの仕事をする「裏方」に回る。
大相撲の奥深いところは、どんなに成績が悪くても、「戦力外通告」など受けることなく、相撲を取り続けることができる点にある。もちろん、本人がそこに〈生きがい〉を見出すことができるならば、である。
例えば、大相撲七月場所の終了時点で、2勝116敗1休という成績の現役力士、服部桜(序ノ口)。力士としては小柄で軽量、どうしても力負けしてしまうので、成績を上げることができない。ただ、それでもくじけず、圧倒的な体格差のある相手に立ち向かっていくので、ファンも多く、熱心な声援が飛ぶ。
そして、2018年の初場所まで「弓取り式」を担当していた聡ノ富士。通算成績は453勝466敗19休で、やや負け越し。今年で41歳になったが、これまでの最高位は東幕下55枚目で、関取の化粧まわしをつけたことは一度もない。相撲界には、「弓取り式を行う相撲取りは関取にはなれない」というジンクスさえある。それでも、5年にわたって担当していた弓取り式では、見事な弓さばきを見せて歓声を浴びていた。
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