世界で熱望される〈生きがい〉はなぜ日本で生まれたか――大相撲に見るユニークさ

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長生きの秘訣!「幸福脳」の作り方――茂木健一郎(2/2)

 脳科学者・茂木健一郎氏が〈生きがい〉の観点から説く、健康と長生きのためのヒントである。昨年9月刊行の英語著作『The Little Book of IKIGAI』で提示された〈生きがい〉を持つための5本柱には、「小さく始めること」や「小さな喜び」などがある。小さく始めることが〈生きがい〉につながる例として、茂木氏は銀座の寿司店「すきやばし次郎」の職人・小野二郎さん(92)を挙げた。

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 ここで、日本的な〈生きがい〉を生み出すに至った、文化的背景を考えてみたい。

 日本には「八百万(やおよろず)の神」がいる。今日、熱心な信仰心を持つ日本人は必ずしも多くはないが、この世の中に多様な価値観があるという考え方は、日本の生活や文化に染みついている。

 一方、欧米では、かつてのような宗教的価値の支配は見られなくなったものの、「トップダウン」で上から価値が与えられるという考え方は根強い。

 旧約聖書の「十戒」が人として生きる上での指針を与えると信じられていたように、何らかの原理、原則から人生をいかに生きるべきかという命題が導き出されるとの前提があるのである。

 欧米流のやり方は、例えば、人権や、平等といった理想に基づき、社会のあり方を作っていくというような場合には利点がある。

 しかし、理想とする大きな目標ありきで、その実現のために邁進するという考え方は、それを成し遂げようとする者に、時に無用の重圧を与える。実現できれば良いが、そうでなければ、人生自体を無意味に感じてしまうかもしれない。

 小野二郎さんが見本であるように、日本人の〈生きがい〉は、本来「小さく始めること」からスタートし、「小さな喜び」を見出す精神である。大きな成功に主眼を置かず、自分に与えられた小さな役割を一生懸命にこなすことに、誇りと喜びを感じる。

 その土壌には、先ほどの「八百万の神」の精神、つまり、この世の中に多様な価値観があるという考え方が根ざしている。こうした日本人の感性は、「世界標準で成功しなければならない」という、グローバルな大競争の中でこそ、実は意味が深まるのだ。

 訪日外国人を驚嘆させる新幹線の清掃作業から、コンビニ店員の卓越した働きぶり、そして、各地に伝承される匠の技まで。

 世界から評価される日本の文化や伝統の多くは、私たちが自分の仕事や生活の中に「小さな喜び」を見出す〈生きがい〉を重んじてきたことにこそ、その素晴らしさの秘密がある。しかもそれは、世間の評価や市場での勝敗に関係なく、長い人生の中で持続可能なのである。

 グローバル化のかけ声の下、日本国内でしか通用しない「ガラパゴス」な価値観が批判されることは多い。しかし、この国には、効率や利潤の追求とは異なる幸福な生き方があることを、私たちは誇りに思っていい。

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