茂木健一郎が説く「幸福脳」の作り方 世界から注目される日本人の〈生きがい〉
長寿と〈生きがい〉の関係
日本人の〈生きがい〉という概念は、2009年9月に行われた、あるTEDトークから広く世界に知られるようになった。「100歳を超えて生きるには」と題されたトークの中で、アメリカの文筆家ダン・ベットナーが「〈生きがい〉は健康で長生きするための精神の持ち方である」と言及したのである。
ベットナーは、世界の中で特に長寿の人が多い5つの地域を「ブルー・ゾーン」と呼び、そのライフスタイルの特性を説明している。そこで最も長い平均寿命を楽しんでいると報告されたのが、沖縄だった。
沖縄はかつて長寿日本一。今でこそ、若年層の食の変化などが原因で平均寿命の順位は下がったが、相変わらず100歳以上のたくさんのおじい、おばあが元気に暮らす。ベットナーがトークで引用した彼らの〈生きがい〉を紹介しよう。
100歳の漁師によれば、いまだ週に3回家族のために魚を獲りにいくこと。102歳の女性によれば、彼女の曾孫のさらに孫娘を抱くこと。――このように誰かとつながっていることが〈生きがい〉の要となり、そこにバランスのとれた伝統的な琉球の食事が加わって、長寿で幸福な人生を送ることができるというのだ。
長寿と〈生きがい〉の観点からは、さらに興味深い研究がある。
40歳から79歳の約5万5千人を対象に、東北大学医学部によって行われた、ある研究(曽根ら「日本における、生きるに値する人生の感覚〈生きがい〉と死亡率の関係」08年)では、「〈生きがい〉がない」と答えた人より、「ある」と答えた人の方が、心臓血管系の病気に罹るリスクが低かった。
健康にはさまざまな要素が絡んでいるため、因果関係を明確にするのは難しい。だが、このリスクの低さは、〈生きがい〉を持つ人の身体的活動量が多いことを示している。と言うのも、体をよく動かすことで、心臓血管系の病気に罹りにくくなるという事実があるからだ。実際、「ある」と答えた人の方がよく運動していることは、同研究の中でわかっている。
人間の脳は、何歳になっても成長できる。日常の中で〈生きがい〉を感じる学びを重ねることが認知症の予防にもつながるのだ。
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