オウム麻原が行った“狂気のマインドコントロール・プログラム”3つの手順

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感覚遮断、飢餓、睡眠剥奪

――オウム真理教の布教活動の特徴は、段階的に修行を行うことで、透視能力やテレパシーなどの超能力を身につけられると喧伝したことだった。オカルト雑誌に、座禅を組んだままジャンプする麻原の“空中浮遊写真”が掲載され、信者数が急増した。むろん、“空中浮遊”は、単に「座禅を組んだままのジャンプ」に過ぎなかったが、さらにオウムは幽体離脱などの神秘体験を売り物として、信者数を増やしていくことになる。

 最近、研究者は、彼らの言うような超常体験、つまり主に修行や祈祷の結果、幻覚が出てくる状態を「アルタード・ステイツ・オブ・コンシャスネス」(ASC)と呼んでいます。日本語に訳せば「変性意識体験」ですが、実は、オウム真理教は、ASCに到達する高い技術を持っていたのです。

 通常、ASCは複合的な理由で発生しますが、一つ一つ分解してみましょう。その第一は感覚遮断です。例えば、被験者にアイマスクと耳栓をして個室に閉じ込めたようなケース。場合によっては、重力さえ感じないように、ぬるま湯を張った水槽に浮かばせる。人にもよりますが、早ければ30分ほどで幻覚を見ることが可能です。また、非常に暗示に掛かりやすくなります。

 第二は飢餓という方法。食事を制限されれば、血糖値が下がって、幻覚や幻聴を体験しやすくなるのです。事件後、すっかり有名になりましたが、信者の食べていたオウム食は低カロリーで、信者たちは慢性的な飢餓状態の上に、断食修行が強要されていました。

 そして、第三の方法は睡眠の剥奪です。そもそも、人間は寝入りばなと目の覚め際には、幻覚を見ることがあるのですが、一般的には36時間の間、眠らないと幻覚が出やすくなるとされています。当然、意識は朦朧としてきますが、オウムでは、この状態の信者を「カルマが深い」とけなしたり、「前世は高い位だった」と誉めたりします。つまり、矛盾したメッセージを繰り返し与えて、混乱させてしまうのです。こうなると、頭の中が真っ白になって、今までにあった条件反射が崩壊します。人間の信念とは、結局、条件反射にすぎませんから、ここに新しい条件反射、すなわち「お布施をするぞ」とか「サリンが出来て嬉しい」というメッセージを繰り返し注入すると、完全に洗脳されてしまうわけです。

 非常によく考えられた手法ですが、ここまでならば、オウムが独自に開発したものとは言えません。実際、このような方法は、昔から、宗教が他宗教の信者を改宗させるために使った方法でした。しかし、彼らはこの他に、私たちが思い付きもしなかった新しいマインドコントロールの方法を編み出していったのです。

(2)へつづく

「FOCUS」 1999年5月12日号

週刊新潮WEB取材班

2018年8月15日掲載

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