「アインシュタイン最後の宿題」解決、彼方からの重力波で何が分かるか 国立天文台教授の「宇宙」最新レポート

ビジネス IT・科学

  • ブックマーク

元素合成の解明に光明

 さて、この最初の重力波。距離は推定できますが、どの方向から来たのか、はよくわかりませんでした。南のリビングストンでは北のハンフォードに比べて7ミリ秒ほど早く信号が来ていたので、南の空からやってきたらしいことはわかりますが、天体望遠鏡を向けて重力波源を探すのは困難でした。その後もLIGOは重力波を何度か検出しましたが、方向が正確に特定されることはありませんでした。

 しかし、遠く離れた他の国の重力波検出装置が稼動すれば、重力波のやってきた方向はより詳しく特定できるはずです。そして、その時は意外に早くやってきました。17年のノーベル賞受賞にわいた約2週間後。欧州のVIRGOが重力波の検出戦線に加わったことで、同年8月17日に検出された重力波について、はじめてやってきた方向が特定できたと発表されたのです。その方向を狙って重力波源の捜索が行われた結果、重力波の検出から約11時間後、複数の望遠鏡がこの重力波源に対応する光源の特定に成功しました。この天体は1億3千万光年の距離にあるうみへび座のNGC4993という銀河にありました。こうして重力波源に対応する天体がはじめて可視光、赤外線などの電磁波で検出され、世界中の約70台の天体望遠鏡や天文衛星が数週間にわたって観測しました。

 実はこの重力波、それまでのものとは異なる波形でした。波形の解析から、ブラックホール同士ではなく、中性子星(主に中性子という素粒子からなる天体で、巨大な恒星が爆発した後に残される天体。極めて密度が高く、角砂糖1個分の大きさで10億トンもある)同士が合体した現象で発生したことがわかりました。これは長く天文学者が探し続けてきた現象です。そして、鉄より重い元素(たとえば金や銀、白金などの貴金属)が大量に合成されていることも判明したのです。金や白金などの元素はこれまで宇宙のどこで生まれているのかよくわかりませんでした。一説には、巨大な恒星の爆発現象「超新星爆発」で生まれると思われていましたが、理論的には生成量がまったく足りません。その意味では、今回の成果は中性子星合体による重力波の検出だけでなく、宇宙の元素合成の解明に光明をもたらしたわけです。

 こうして重力波は続々と検出され、宇宙を見渡すとブラックホール同士が合体する現象が頻繁に起きていることがわかってきました。ブラックホールが合体すれば、さらに質量の大きいブラックホールが生まれます。実はわれわれの太陽系が属している銀河系(天の川銀河)の中心にも巨大なブラックホールが存在し、質量は太陽の約400万倍。こんなブラックホールがどうやって生まれたのか、まだ解明されていませんが、はじめて「合体」が確認されたことで、今後、巨大ブラックホールの育ち方もわかってくるかもしれません。

(2)へつづく

渡部潤一(わたなべ・じゅんいち)
国立天文台副台長。1960年福島県生まれ。東京大学理学部天文学科卒。専門は太陽系小天体の観測的研究。2006年、国際天文学連合「惑星定義委員会」の委員となり、太陽系の惑星から冥王星の除外を決定した最終メンバーの一人。

まとめ:渡部好恵(わたなべ・よしえ)
神奈川県生まれ。東レ基礎研究所、蛋白工学研究所を経てライターに。天文雑誌やウェブサイトにて、天文宇宙分野を中心に執筆活動を行っている。

週刊新潮 2018年7月5日号掲載

特別読物「巨大宇宙船を捕捉? 『第二の地球』候補は40億個! 『国立天文台教授』の『宇宙』最新レポート」より

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。