次々明らかになるスポーツ界の「ガバナンス問題」 川淵三郎はどう戦ったのか

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ガバナンス不在の世界

 世の中のコンプライアンスとか政治的正しさとは別の論理で動いている団体が存在する。それも裏社会などではなく、スポーツ界にすら――。日本ボクシング連盟の一連の騒動は、そんな現実を見せてくれたのは間違いない。

 川淵三郎氏は、こうしたスポーツ界の旧弊や悪弊と闘い続けてきた人物だ。

「川淵三郎」の名を聞けば、今でも多くの人が「チェアマン」と答えることだろう。そのくらいJリーグ発足時の印象は強烈だった。

 しかし現在の川淵氏の肩書はチェアマンではない。日本サッカー協会の相談役であり、日本トップリーグ連携機構(JTL)の会長である。

 JTLについては少し説明が必要だろう。女子サッカー、バレーボール、バスケットボール、ハンドボール、ラグビー、ホッケー、アイスホッケー、ソフトボールのトップリーグが集まって2005年に発足した組織だ(その後フットサル、アメリカンフットボール、Jリーグ、Bリーグも加盟)。大きな目的としては、各競技の強化があるが、それ以外にも審判の育成・養成や子どもたちへの競技の普及なども行なっている。

 川淵氏が会長に就任したのは2015年。このとき彼が宣言したのは、各リーグのガバナンスをきちんと見たうえで、不十分なところは改革する、ということだった。

 川淵氏は「ガバナンスが整備されていなければ、いくらお金をもらっても戦略的な強化計画など立てられない」と考えているからだ。

 新著『黙ってられるか』には、数々の改革に取り組み、実績をあげてきた川淵氏のスポーツ界改革に関する体験と哲学が述べられている。以下、同書から抜粋・引用してみよう。

 川淵氏がガバナンスの重要性を関係者に説く際、必ず持ち出すのが1964年の東京五輪のときの話だ。

 日本サッカー協会は地元開催で無様な姿を見せまいと、ドイツサッカー協会に指導者の招聘を要請し、50日間の欧州遠征を敢行した。当時、日本代表選手だった川淵氏はここで師と仰ぐクラマーコーチの指導を受けることとなる。

 日本代表はみるみるうちに上達し、東京五輪ではベスト8、次のメキシコ五輪では銅メダルを獲得するまでになる。

 ところが、その後、限られた選手だけを強化して、次代を担う若手を育てなかったために、日本サッカーは暗黒の時代に突入。

 この経緯を目の当たりにしているだけに「同じ轍を踏んではならない」と川淵氏は強く戒める。

「2020年東京オリンピックが終わったら、どの競技もまた弱体化してしまうなんてことがないように、短・中・長期的な強化方針を立て、指導者や選手などを育てていかなければならない。それを、日本トップリーグ連携機構の各リーグ関係者に口を酸っぱくして伝えている。

 今はトップリーグ連携機構から各リーグへ2千万円が支給されているが、ただお金を渡すだけでは不十分で、各リーグがそれを有効に使い、きちんと運営できているのかを会長として見ていきたいと思っている。きちんと運営しないところにはお金を出さない、というところまで持っていきたい」

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