「ハンカチ王子」誕生に見た“75年前の因縁が呼んだ奇跡”――「夏の甲子園」百年史に刻まれた三大勝負

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「夏の甲子園」百年史に刻まれた「三大勝負」――門田隆将(3/3)

 甲子園では、運命としか考えられないような出来事が時に起こるものである。

 駒大苫小牧と早稲田実業との決勝戦が、まさにそれだった。こんなことが本当に起こるのか――私は、決勝戦を見ながら、そんなことを考えていた。

 平成18年8月21日、両校の激突は、前日の延長15回引き分けに続く再試合が大詰めを迎えていた。4対3、早実のリードで駒大苫小牧の攻撃、9回表2死ランナーなし。マウンドに仁王立ちするのは、“ハンカチ王子”こと早実の斎藤佑樹投手。バッターは駒大のピッチャーで6番田中将大だ。

 2ストライク1ボールと追い込まれながら、笑みを浮かべる田中と、その笑みに気づいた斎藤。私は、のちにこの場面について2人に聞いたことがあるが、マウンドとバッターボックスで、2人が想像以上に冷静沈着に対峙していたことに驚かされた。その時、斎藤はもう心に決めていた。

「最後の球は外角のストレート。高校3年間で一番練習した球で勝負する」

 斎藤は絶対に「悔いは残さない」と固く決意していた。すでに決勝に入って24イニング、293球も投げているのに、斎藤の球は勢いを失っていなかった。

 2人の勝負は、田中がファウルで粘ったあとの2―1からの7球目で決着がついた。斎藤は心に決めていた外角のストレートを投げ込んだ。高校生活で最も練習した、まさにその球だ。

 フルスイングで応える田中。空振り! 三振、ゲームセット!

 キャッチャーの白川がミットを高く空に突き上げた。創部102年目の早稲田実業が悲願の初優勝を遂げた瞬間である。私は、甲子園のヒーロー“ハンカチ王子”が誕生したこともさることながら、運命のいたずらとも言うべき奇跡に感嘆の声を洩らしていた。

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