満身創痍の「内田裕也」を密着300時間 崔洋一監督が語るドキュメンタリー撮影秘話

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内田裕也の光と影

――裕也氏は編集に口を出すのだろうか。

崔監督:それはまったくない。それに当事者には一切、見せるようなことはしませんから。事前に完成品を見せてもいないし、裕也さんは視聴者の皆さんと一緒にオンエアで見てます。放送後に裕也さんから、ひと言ありましたよ、「面白かった」と。

――だが、日曜午後2時の放送である。視聴率が取れる時間帯ではない。

崔監督:そう、それは仕方がない。フジの人に聞くと、SNSなどでも結構取り上げられたみたいで、ホットワードでランキング入りしたらしいです。裕也さんて、不思議なことに、どんな時にもファンがいるんですよ。なんでしょうね、彼の魅力は。明晰な理屈を持ちながらも感情の人、論理と感情が絡まるような、あの生き方でしょうか。「バカヤロー!」とか裕也さんの代名詞のようになっているけど、普段は「です」「ます」の丁寧語。そして不思議なことに、兵庫生まれの大阪育ちという関西人なのに、40年以上付き合いがあっても、1度も関西弁を聞いたことがない。それが今回のロケで、ちょっと関西人ぽいところを見たんです。裕也さんは“すき焼き”と“うどんすき”が大好きなんですよ、うどんすきが好きロックンローラーってのもね……。京都では、にしん蕎麦で有名な松葉にも一緒に行きましたが、裕也さん注文の時に「アゲ入りね」って。普通に油揚げの載った、にしん蕎麦が出てきた。関東の人間にはない発想ですよね。向こうでは通の人の注文だそうです。

――前篇では「ニューイヤーロック~」のリハーサルで声が出ないもどかしさなど近況から始まり、幼少期を振り返った。裕也氏が生まれた旧自宅にも自ら訪ねている。足が治りきっていない裕也氏は車椅子で、崔監督がそれを押している。

崔監督:まあ年が年ですからね。ぼくだってこの撮影期間中に足首を骨折してね、なかなか治らないんだから。後編は青春時代の総括。デビューの頃、一心不乱だった裕也さんを佐川満男さん(78)らが証言してくれます。また、裕也さんはGSのタイガースをスカウトし、デビューさせた人でもありますが、岸部一徳さん(71)も証言者として出てくれますよ。「Youたち……」って声をかけてきたと言うんですよ。なんだかジャニー喜多川さん(86)みたいでしょ。そしたら、ジャニーさんとも付き合いがあるという。日劇ウエスタンカーニバルの時に、裕也さんたちのバックで踊っていたのが、あおい輝彦さん(70)たちの“ジャニーズ”で、そのリハーサルにはジャニー喜多川さんもストップウォッチ持って指示を出していたというんです。「Youたち……」ってどっちが言い出したのか、最後まで分かりませんでしたけど。

――さらに後編(8月5日放送)では、ビートルズ武道館公演で、前座を務めた時のフィルム映像、もはや伝説的な都知事選出馬、そして家庭についても。

崔監督:希林さんが語ってくれます。

――なんだか“生前”追悼番組のような……。

崔監督:いやいや、裕也さん「100まで生きる」って言っていますから。我々の世界で言えば、鈴木清順(1923~2017)のような存在になっていくんじゃないでしょうか。かと思えば、「その質問、あっちの世界に行くことを前提に聞いてる?」なんて言ってニヤリとしたりするんですよ。

――監督は内田裕也の何を撮りたかったのか。

崔監督:ぼくたちは年をとると、若い時にあれほど嫌いだったことも許せてしまったりするじゃないですか。人と違うことを言うのはいけないことと自制してしまったり。だけど裕也さんには、それがない。間違いなく日本のロックの先駆者の一人であるけど、主流とは一線を画す。一人のアーティストの身勝手な人生というか、内田裕也が放つ光と影という作品になっていればいいなと思います。

週刊新潮WEB取材班

2018年8月4日掲載

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