夏の突然死を招く「夏血栓」に要注意 30代が心筋梗塞で搬送のケースも
急に心肺停止
一般に血栓が肺の血管に詰まると肺血栓塞栓症を引き起こす。いわゆるエコノミークラス症候群だ。
サッカー元日本代表の高原直泰選手がエコノミークラス症候群でリハビリを余儀なくされたことでも知られているが、最近では熊本地震の避難者が、マイカーの中での生活を強いられたため、重症患者が出たことは記憶に新しい。
自覚症状としては、胸痛や呼吸困難、さらには血痰などの症状があり、最悪の場合は心肺停止に陥る。
ところが、「夏血栓」から来る肺血栓塞栓症は、エコノミークラス症候群より見つけるのが難しい。車や飛行機に乗っていたわけではないため、本人も医師も気が付かないのだ。治療が遅れてしまえば、当然、死亡率が跳ね上がる。
たとえば肺血栓塞栓症は早めに治療すれば2〜8%の死亡率だが、放置しておくと死亡率が30%にまで上がってしまう。
日本呼吸器学会に所属する専門医の大谷義夫医師(池袋大谷クリニック院長)は、猛暑の日、「夏血栓」に見舞われた患者を診たことがある。
「その患者さんは50歳の銀行マンで軽いぜんそく以外に持病がない人でした。胸が苦しくなって病院に来たのですが、レントゲンを撮ってみると一見何もないように見える。ところが、待合室で突然、心肺停止になったのです」
急いで蘇生措置を施し、様々な検査をしてみると肺動脈など2カ所の血管で大きな血栓が見つかった。
「原因も調べてみたのですが、生活習慣病などの基礎疾患がなく、唯一のリスクとして考えられたのが、暑い日に水分を摂らずに、ずっと座りっぱなしだったことです。それで、夏血栓だと分かった。これは、恐ろしい病気だと思いましたね」(同)
32歳の男性のケースも
また、大谷医師は、「夏血栓」によって心筋梗塞を引き起こしたケースも目の当たりにしている。
「32歳の男性が東京ドームでジャイアンツ戦を観戦していた時でした。急に胸が痛くなって病院に救急搬送されてきたのですが、最初は気胸や胸膜炎を疑ったのです。しかし、調べてみると違う。もちろん、基礎疾患もありませんでした」
気になったのは、ビールをガンガン飲みながら応援していたこと。そして汗をびっしょりかいていたことだった。
「もしや、と思って心電図を取ると心筋梗塞を起こしていたのです。ビールの利尿作用で身体の水分が失われ、応援で体温が上がったため、脱水状態になったのでしょう。血液はドロドロになっていたはずです」(同)
かように、「夏血栓」は、医者でさえ判断を迷ってしまうことがある。発見と治療が遅れたら、自覚のないまま最悪の事態になることを覚悟しなくてはいけない。
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