展開は不安だけど初回はひとまず及第点の“綾瀬はるか”「義母と娘のブルース」(TVふうーん録)

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 恋愛、結婚、家族、育児。昔の人は、悩みはあれども深く考えもせず、「みんなこんなもんだ」と自分の意思や権利を押し殺して受け流してきた。それはそれで大問題だが、今は時代が違う。すべてにおいて完璧を目指す。他人と比べる。殺伐とする。そして疲弊する。

 完璧を目指して努力することはエエ話に聞こえるけれど、ちと怖い。不完全なものや定型ではないものを認めない心根が透けて見えるからだ。矛先が他人に向かうだけでなく、不全な自分を許せないと苦しいだけだよね、毎日が。妻として、母として完璧を目指すキャリアウーマンの姿に、一瞬不安を覚えたのが「義母と娘のブルース」である。

 主演は女優界の優等生で稼ぎ頭、綾瀬はるか。ぼんやりお嬢さんからふんわり美人、そして謎の武闘派へ移行したりと、戦略がことごとく功を奏している女優だ。黒い噂もスキャンダルもほぼナシ。適役だと思う。

 綾瀬は「孫子の兵法」をヒントに、的確な指示と意表を突く手腕で、33歳で金属会社の営業部長まで上り詰めた女だ。ライバル会社に勤めるパッとしない竹野内豊と結婚を前提に交際中。

 ネックになるのは竹野内の一人娘・横溝菜帆。妻を亡くした後、男手ひとつで娘を育ててきた竹野内は、綾瀬を娘の母にしたいと目論む。綾瀬も自分が培ってきたビジネス理論や交渉術に加え、児童心理学などの知識も得て、娘に気に入られるよう、あの手この手を尽くす。その奮闘ぶりをコミカルに描いていく。

 いや、結構面白いのだよ、これ。綾瀬は相手が子供でも態度や言葉遣いは変えず、冷静沈着なビジネスモードを貫いていくのが斬新。美しい角度のお辞儀で子供相手に名刺を渡したり、履歴書を提出して、子供に再婚のお伺いをたてたりして。原作の4コマ漫画の面白みはそこだろうと思っている。

 もちろん現実味に欠ける設定もあるし、綾瀬の腹踊りの中途半端な露出とクオリティの低さはどうかと思う。さすがの孫子も腹踊りの極意は伝えなかった模様。 

 でも、子供に迎合しようとするものの、決して「子供扱い」しない綾瀬の不器用さがいい。普通の女は子供に好かれようと思ったら、謎の母性アピールするからな。作り笑いで近づいて、優しくて面倒見のいいフリするからな。苦手なくせに家事全般デキる風を装ったりするからな。しかも、その腹黒さで男は騙せても、子供には看破されるよな。

 今後も綾瀬が揺るがないビジネスモードを貫いて、合理的に家庭運営をするのかと思うと頼もしい。まさか、すべて完璧にこなすワケじゃないよね? 家事と育児は分担するよね? 母だけに背負わせないよね?

 で、もうひとつ。まだ朝ドラ「半分、青い。」の律を引きずっている視聴者は、やさぐれちゃった佐藤健の存在が気になる。髪は伸びて傷み、眉毛は薄くて暗い目をした佐藤が、この後の展開にどう影響するのか。

 初回を観ただけで判断するのはしのびない作品だが、今期は各局他のドラマが、なかなか始まんねーんだよ。五月雨(さみだれ)式にもほどがある。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2018年7月26日号掲載

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