「菅井」ならば“婆さん”連想 名前にまつわるミスリード(中川淳一郎)
とある著名人のイメージが強すぎて、その人物と同じ苗字・名前を見た時にその人物(とその印象)に囚われてしまうことがあります。最近読んでいる雑誌に「菅井」という苗字のカメラマンが登場するのですが、何があろうとも「菅井きん」を思い出します。また、このカメラマンの仕事ぶりについても、婆さんがカメラを構えている姿を想像してしまうのです。
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それを考えると菅井きん(92)というのは「婆さん役」を見事に演じ切っていたのだな、と思うのです。私がはじめて彼女の演技を見たのは、1987年のNHKドラマ「お入学」で、学がなく、嫁に恐縮する婆さんを演じていましたが、この時まだ61歳。今年60歳の女優ならば萬田久子がいますが、彼女が嫁に恐縮する婆さんの役をやるところはイメージできない。まだ58歳ですが、浅野ゆう子による「申し訳ないねェ……」みたいな婆さん役も想像できない。萬田も浅野も「その若さで○歳ですか?!」「相変わらずお綺麗ですね!」みたいな文脈で語られがちなのに、61歳の菅井きんはまごうかたなき老婆だった。
しかし、彼女、68年のNHK大河「竜馬がゆく」で42歳にして「おやべ婆やん」の役をやっています。73年以降の「必殺」シリーズでは中村主水の姑役として「ムコ殿!」といびる役を完成させています。40代の頃から「婆さん」に徹してきた菅井きんなだけに、気がつけば「婆さん的苗字の代表を挙げよ!」という時に「菅井」が出てくるようになってしまっていたのです。「きん」という、若い時から老婆風な芸名(本名はキミ子)も合わせ、見事な女優魂です。
これと同様に「光司」という名前を見ると、子供時代の貴乃花を思い出します。「どんなお相撲さんになりたいの?」とレポーターから聞かれ、真ん丸顔の男の子がかわいい笑顔で、「パパみたいになりたい」と言う。「パパどんなお相撲さん?」と聞くと「強くてね〜、逞しくてね〜、勇気あるしね〜、人気があるしね〜」と言う。以後「光司」は「かわいいデブの子供」ということになってしまった。「江本」「山路」という苗字を見ると「メガネをかけた色男」(江本孟紀・山路徹)を想像します。
さすがに「田中」や「佐藤」であれば、あまりにも多過ぎて特定のイメージはつきませんし、「筒香」みたいに珍しい苗字だと本人(横浜DeNAの筒香嘉智)以外でその苗字を見ることはないので、こうした脳内ミスリードともいえる状況は起こりません。「菅井」は時々見る苗字なので「婆さん」イメージが成り立つのでしょう。
この文脈とは別の話ですが、文字列が別の読み方に変わることもあります。元々「菅野」という苗字を見た時は「菅野美穂」を連想し「かんの」と読んでいましたが、最近は巨人のエース・菅野智之が見事な活躍をし続けているだけに「すがの」としか読めなくなりました。Mobileにしてもかつては「機動戦士ガンダム」に登場する「Mobile Suit」(モビルスーツ)の影響で「モビル」と読んでいましたが、今や携帯電話の普及で「モバイル」です。ガンダムのゲームを最近やったら「モバイルスーツ」と読んでしまいました。