斎藤工「♪仕事(バイト)探しはIndeed」のCMがウザがられない理由
日本に“ローカライズ”して大成功
当時、海外ではIndeedの知名度は高かった。そうしたこともあり、世界仕様のCMは要約すると「Indeedとユーザー、そして求人広告を出す企業との間で、絆を構築しましょう」という内容だったという。
「確かに欧米では、企業理念が共感されると、その会社が提供するサービスに人気が出るという側面はあります。しかし、そうしたCMは、Indeedが世界ナンバーワンで、求人を探すならIndeedだというポジションが確立されて成り立つものでしょう。Indeedが何か知らない人に向かって、『私たちは素敵でしょう?』と呼びかけても、『はぁ!?』という返事になるのは当然です。つまり我々のことを全く知らないという日本市場に向けたCMを、意識的に作らなければならないことが分かったわけです」(同・水島さん)
そうして“ローカライズ”が始まる。例えばIndeedのロゴにカタカナで「インディード」と表記をつけた。さらに「仕事を探す」層は高校生や大学生から、定年を迎えたシニアまで幅広く、356日24時間、いつでも必要性が生じるという特性に合ったCMを考えなければならなかった。
「バイト専門のサービスなら、学生さんに寄せたCMにするわけですが、私たちは仕事を探す人たち全員に向けたサービスを展開しています。斎藤工さんと泉里香さんというキャスティングも、お二人が幅広い人気があり、ファンが特定の層に傾いていないからなんです。日本中で最も嫌われていないお二人という言い方もできるかもしれません。さらに男性と女性を1人ずつ画面に登場させたのも、両性のターゲットを意識したからです」(同・水島さん)
水島さんに要求されたのは「短期間でIndeedの認知度を上昇させる」という仕事。となると、大量のテレビCMを流す必要が生じる。だが、あまりやり過ぎると「このCM、ウザい」と批判も集めてしまう。
「CMをたくさん放送すると、『仕事探しはIndeed』と想起してもらう可能性は上昇します。しかし視聴者の皆さんから『このCM、何度も見てるなあ、しつこいなあ』と思われては元も子も無いわけです。そうしないためには、好感度の高いCMである必要があります。『Indeedは仕事を探すときに使うんだよ』というワンメッセージを伝えたら、後はくすっと笑っちゃうような、コンテンツとしてエンターティメント性が感じられるものを意識して作りました」(同・水島さん)
「今一番勢いのある会社」だと感じさせるCM
ここで重要な役割を果たすのが、「♪仕事(バイト)探しはIndeed」という替え歌だ。
「Indeedにはブランドスローガンのようなものがあって、これは『search for greatness(サーチ・フォー・グレイトネス)』と言います。日本語では『仕事探しにサーチあれ』と訳しているんですが、これもあって『幸せなら手をたたこう』の曲を選びました。検索をするという“サーチ”は“幸”を意味しており、だからこそ歌も“幸せ”という表現です」(同・水島さん)
こうして日本版CMの構想が固まり、大量の放送が現実のものとなると、Indeedは「たくさんのバージョンを撮影し、短いスパンで替えていく」ことを選択する。これにはITサービスを行っている会社独特のニーズがあったという。
「例えば10年前の食品メーカーさんなら、『新商品の発売に合わせてキャンペーンを打ちましょう』ということになっていました。印象に残るCMを作り、一気に大量に放送して話題を呼び、小売店に来てもらうという流れです。自動的にメリハリが生まれるので、『このCM、ウザい』と批判を招くリスクを下げられます。ところが私たちは、365日、常にサービスを提供していますので、テレビCMも年間を通じて放送するわけです。飽きられるリスクが高いことになります。そのために季節性を感じるクリスマスとか七夕とか多様なCMを制作し、同じものを何度も流すのではなく、できるだけ替えていきましょうという手法を選択しました。私たちのCMは非常にスピーディーに内容を理解してもらえるので、副作用として寿命が短いわけです。正直なところ制作費はかさむのですが、できるだけフレッシュなものを、どんどん出していく。そうすると、今一番勢いがある会社であり、求人という分野では今一番使うべきサービスだ、という印象を持ってもらうことが可能になります。そのための戦略であり、そのための表現だということですね」(同・水島さん)
[2/3ページ]