「投資で1億円」? 夢見る前に知っておくべき「手数料」の落とし穴
「AERA」の投資デビュー特集
いまさら言うまでもないことだが、朝日新聞と安倍首相とは仲が悪い。朝日新聞出版が刊行している週刊誌「AERA」もまた同様で、巻頭のコラム等でもアベノミクス批判をよく目にする。
それだけに「AERA」7月9日号には驚いた読者もいるかもしれない。「大特集」のタイトルは「今度こそ投資デビュー」。
記事の冒頭には「政府も様々な制度で後押ししている今こそ、投資デビューするチャンスだ」とある。たとえば記事には、手持ちの現金100万円を投資に回すという女性(29)が登場する。投資初心者で、これまで貯めていた出産祝いや子ども手当、子どものお年玉などを投資し始めたのだそうだ。「子どもの金に手をつけるなんてとんでもない」と批判する文脈ではない。彼女がこの100万円を1億円に膨らませることを前向きに紹介している。
もちろん本文中では投資のリスクについても触れてはいるものの、全体のトーンはなんだかまるでアベノミクス応援団のようなのだ。
もっとも、身の丈に合わぬことはしないほうがいいのだろうか。この号が発売されて間もなく、朝日新聞にはこんな見出しの記事が掲載された。
「銀行投信の個人客、半数が損失 運用成績に大きな差異 金融庁、国内29行調査」(7月6日付朝刊)
「国内29の銀行で投資信託を買った個人客の半分近くが、運用損失を出していることが金融庁の調べでわかった」というのである。
記事の中で特に注目すべきは、手数料まで考慮すると、何と46%もの人が損をしていた、という指摘だろう。かりに見せかけの「プラス」があっても、高い手数料を引かれると実質損になるのだ。
経済ジャーナリストの荻原博子さんは、「AERA」の大特集とは正反対のタイトルの著書『投資なんか、おやめなさい』の中で、次のように「手数料の怖さ」を解説している(以下、同書より抜粋・引用)
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65%の人は分かっていない
投資の世界は、運次第。勝つときもあれば、負けるときもあります。では、「投資信託」の運用で、勝ちも負けもせず、ずっと同じ状況が続くとどうなるのでしょう。
運用が良くも悪くもないそのままの状態が続くとしたら、預けたお金は増えもせず、減りもしない気がします。が、そうではありません。確実に、預けたお金は減ります。
なぜなら、勝ちも負けもしないでいるあいだも、必ず金融機関に手数料だけは払い続けなくてはならないからです。
実は、「投資信託」は勝つこともあれば負けることもあるということはかなりの方が知っているようですが、一般社団法人・投資信託協会のアンケートでは、手数料についてはよくわからないという人が65%もいました。「投資信託」は、運用している間、ずっと信託報酬という手数料を払い続けなくてはいけません。購入時と売却時は、「投資信託」によって手数料を取るもの、取らないものがありますが、運用中は必ず手数料が発生します。
では、この手数料を「グロソブ」を例に見てみましょう。「グロソブ」とは国際投信投資顧問(現・三菱UFJ国際投信)が販売する「グローバル・ソブリン・オープン」という商品で、「毎月分配型投信」の元祖ともいえます。
投資初心者に人気の「リスクが大きい株ではなく、安定した利回りの高い海外の債権に投資しています」というアピールで、6兆円もの資金を集めました。
1千万が800万円に
「グロソブ」は、買った時に購入額に対して1億円未満なら1・62%の購入手数料がかかり、売った時に0・5%の手数料がかかります。さらに持っている間は、年率1・35%の手数料がかかります。仮に、1千万円預けてこの手数料を20年間取られ続けると、元本が運用で増えもせず減りもせずにずっと一定でも、1千万円が800万円を割り込みます。
つまり、運用で増えもせず、減りもしなくても、20年経つと資産の5分の1は手数料で消えていってしまうということ。裏を返せば、売る側には、買った人がソンをしようとトクをしようと、いったん売れれば、確実に大きな手数料が転がり込むということです。これは大きいです。
しかも、この20年の間に、インフレが進む可能性があります。仮に、日銀が目指す年2%のインフレが進んでいくと、預けた1千万円は、運用で勝ちもせず、負けもせず、さらに分配金をもらわない状況が続いても、貨幣価値としては現状の700万円程度までに目減りする可能性があります。さらに、ここから手数料を引かれると、500万円程度になる可能性があるということ。
もちろん、こうした状況でも、常に6~7%くらいの運用を続けていくことができれば、分配金を1%程度出したとしても、預けたお金は実質的に増えていきます。けれど、「グロソブ」のような債券運用でこれだけの利回りをコンスタントに出していくのは、よほどの円安にならなければ難しいでしょう。
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「デビュー」の前に知っておくべきことは多い。成功例や挑戦者だけではなく、敗者の事例もその一つだろう。