「受刑者の20%は知的障害者」 日本では刑務所が福祉施設化というリアル

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障害者のために実刑判決を下す裁判官

《刑務所に入るときは、みんなかならず知能検査を受ける。一般的にいって、知能指数が69以下だと、知的障害があるとみなされる(世界保健機関の基準)。
 2016年に新しく刑務所に入った受刑者約2万500人のうち、約4200人は知能指数が69以下だった。つまり受刑者10人のうち、2人くらいは知的障害のある可能性が高いということだ。
 ついでに最終学歴はというと、中学校卒業がいちばん多くて40%くらい。次が高校卒業で30%くらい。大学卒業は5%しかいない。むしろ、義務教育さえまともに受けていない人たちのほうが、だんぜん多いんだ》

《2016年、新しく刑務所に入ってきた受刑者約2万500人のうち、殺人犯は218人だった。刑務所の中でも、殺人犯と会うことはめったにない。
 君たちと同じ、少年の犯罪も激減しているよ。未成年者による犯罪の検挙者数は、2016年が3万1516人。これは10年前の4分の1くらいの数なんだ。だから、全国の少年鑑別所は、ガラガラな状態のところばかりだよ》

《犯罪全体の認知件数は、2002年には日本全体で約258万件もあった。それが2017年には約91万件と、この15年間で3分の1以下に減ったんだからね。
 一方で、あまり減っていないのが知的障害のある人の犯罪だ。ほとんどが窃盗や無銭飲食、無賃乗車とかの軽い罪。スーパーで売り物のアジフライを一口かじっただけで、実刑判決を受けた人もいる。
 僕が思うに、もしかしたら裁判官は、「彼らのため」と思って実刑判決を出している面もあるのかもしれない。執行猶予がついて社会の中に戻ると、きっとまたいじめられたり、ホームレス状態になったりする。だから、緊急避難の意味合いで、実刑にするのかもしれない。でも、そんな理由で刑務所に入れられているというのは、おかしな社会なんじゃないだろうか》

「知って、見ること」の重要性

 山本氏も、累犯障害者が「社会の中で虐待されるより、刑務所の中が暮らしやすい」と本音を吐露する姿を間近で目撃している。

「彼らは満期が近づくと、『シャバに戻るのが怖い』と自傷行為を始めたりするんです。見かねた私が『社会は怖いと言うけど、社会には自由がありますよ』と励ますと、『刑務所に自由はないけど、不自由もない』と返されたことがあります。刑務所の工場で部品がなくなると、疑われた受刑者は人前で裸にされ、お尻の穴まで検査されます。法的に人権が制約されている場所だと言えますが、では、社会の中での彼らはどうだったんでしょうか。彼らは刑務所に入る前、路上生活をしていたことが多いんです。コンビニのゴミ箱を漁っていると、からかわれて裸にされ、お尻にライターで火を付けられるようなこともあったんだそうです。人権など全くないですね。ならば、ぎりぎりのところで、まだ刑務所のほうが自分の尊厳を守ってくれるという逆説が成立してしまうんです」

 不条理と言っていい状況だが、それに対処するためには刑法を改正する必要があると、山本氏は訴えている。法務省も高い関心を持っているという。

「彼らに懲役刑はそぐわないということははっきりしています。懲役の意味は『監獄に拘置して所定の作業を科す刑罰』(※編集部註:『大辞林』(三省堂)より)ですが、障害者と高齢者が大半を占める刑務所に、工場の役割は担えません。刑罰を受けることは必要だと思いますが、作業一辺倒ではなく、もっと社会適応訓練とか、職業訓練とか、社会復帰に向けたプログラムを実施すべきです。福祉も変わる必要があります。障害者施設の職員が入所者からセクハラの被害を受けることは日常茶飯事です。女性は胸を触られます。私も股間を握られたことがあります。しかし職員は、笑って注意しません。これこそ福祉が障害者を社会に戻そうとはしていない証左でしょう。『こんなことをしたらダメです』という社会のルールをしっかりと説明する場にしなければなりません」

 新刊では成功例として、ある障害者が人並み外れた記憶力を活用し、大手企業で郵便の分類に活躍する姿が描かれている。成功体験があれば人は代わる。人が代われば社会も変わると山本氏は訴える。

「本を読んで現実を知ってほしいということが一番ですが、さらに自分たちが『見て見ぬ振りをしてきた』ことも再認識してもらえればと願っています。障害者は私たちの周囲で暮らしています。遠く離れた場所に隠れているわけではないんです。公園で独りぼっちの人や、ゴミ屋敷の住民、時たま奇声をあげる人などに出会うことがあるでしょう。そんな時、まずはしっかりと見てください。そして知っていくにつれ、自分たちと全く変わらないと気づくはずです。嫌なことがあれば悲しいし、良いことがあれば嬉しい。そんな人としての思いは、障害者であろうと健常者であろうと同じなんです」

 山本氏は新刊の最終部分を、次のようなメッセージで結んだ。

《日本という国は、もう爆発的に人口が増えることはない。経済活動の中心は人なのだから、それをどんどん排除していけば先行きが暗いよね。罪を犯した障害者を社会に受け入れることは、この国にとっての成長戦略だと思う。障害のある本人だけじゃなく、みんなにとってのプラスになる》

週刊新潮WEB取材班

2018年7月20日掲載

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