またもオーナー辞任!「元」紳士球団「巨人」の根深い「病巣」
巨人軍は常に紳士たれ――。これはプロ野球読売ジャイアンツの創立者であり、初代オーナー・正力松太郎氏の遺訓だ。しかし今、その巨人は規律が大きく乱れている。
7月17日、巨人は老川祥一オーナーの辞任を発表。不祥事続出に歯止めがかからない事態の責任を取る形で、自ら身を引いた。石井一夫球団社長と鹿取義隆GMら幹部4人にも報酬の自主返納などの処分が課せられるなど、高まる批判に対して、球団側は一応のケジメをつけたかったようだ。しかし、これだけでは残念ながら抜本的な問題解決に何1つ結び付きそうもない。
3年前に辞任したばかり
ここまで立て続けに発生した不祥事を振り返ってみよう。7月8日、川崎市・ジャイアンツ球場のロッカールームから選手のユニホームを盗んだ窃盗容疑で、元巨人の野手・柿沢貴裕容疑者が逮捕された。前日に巨人側は柿沢容疑者が5月上旬から6月下旬にかけて1軍選手のバットやグラブなど約110点を盗み、売却していたとして契約を解除し、警視庁多摩中央警察署に被害について相談していたという。
柿沢容疑者は2012年、東北楽天ゴールデンイーグルスからドラフトで6位指名されて入団。2016年まで楽天でプレーし、同年オフに巨人へトレード移籍した。若手のホープとして期待された反面、その裏側では虚言癖や手クセの悪さなどが絶えずウワサされていた。
今回の事件で巨人側はあくまでも「被害者」を強調しているが、もともと楽天時代から素行に問題があった柿沢の“身体検査”をロクに行わなかったからこそ、このような前代未聞の恥ずべき犯罪を自軍の所属選手が引き起こすに至ったのだ。やはり球団としてのチェック機能が著しく低下していると言わざるを得ない。
そして、つい先日も写真週刊誌『フライデー』(7月13日発売号)の報道で、球団の2軍専属トレーナーが女性に「わいせつマッサージ」を行い、渋谷署に被害届が提出されていたことが発覚。球界関係者、そしてファンをも呆れさせた。
また6月には、知人との飲食中に篠原慎平投手と河野元貴捕手が裸の動画を会員制交流サイト(SNS)に投稿し、今季終了までの出場停止と減俸処分を受けた。この場には主将の坂本勇人内野手も同席していたといい、不適切な行為が起きる前に席を離れていたことで球団側からは厳重注意のみの処分とされたものの、チームの精神的支柱となるべき選手が恥ずべき騒動の渦中にいたことは間違いなく、愚の骨頂だ。開いた口が塞がらない。
さらに昨年7月には、横浜DeNAベイスターズからFA移籍してきたばかりの山口俊投手が泥酔した挙句、病院で暴れた上に警備員にケガを負わせ、傷害と器物破損容疑で書類送検された。
もう少し遡ると、2015年から16年にかけては野球賭博事件が発覚。笠原将生元投手らが逮捕され、球界を大混乱に陥れた大醜聞もまだ記憶に残っているだろう。
そもそも今回辞任した老川前オーナーは、この野球賭博事件を受けて辞任した当時の白石興二郎氏に代わって就任し、再発防止を誓っていたにもかかわらず、昨今の不祥事頻発を招いてしまったのである。トップが変わっても同じ失態を繰り返すというこの体たらくではもう何を言っても信用されず、世間から猛バッシングを受けても仕方がない。
“恐怖政治”で保った規律
巨人が「紳士球団」と呼ばれたのも今は昔。とっくに球団としての秩序は崩壊し、タガが緩んでしまっている。一体、何がこの球団の歯車を狂わせてしまったのか。球団関係者の話を総合すると、1人の元実力者の存在がクローズアップされてきた。かつて球団代表、編成本部長、GMなどを務めていた清武英利氏だ。
球団代表だった2011年11月、清武氏は読売新聞グループ本社会長兼主筆・読売巨人軍球団会長だった渡辺恒雄氏に突然反旗を翻した。自らの頭越しに渡辺氏が球団人事に介入したことがコンプライアンス違反だと告発したのである。その後解任された清武氏は巨人及び読売新聞社と骨肉の争いの末、球界からフェードアウトした。以来、巨人は清武氏が球団幹部として在籍していた時代を「黒歴史」とするかのごとくフタを閉め、闇に葬ろうとしてきた。
古参の球団関係者は、「実は皮肉なことに、この流れこそが不祥事続出につながってしまっている」と、こう続ける。
「清武さんはワンマンな性格で態度も横柄でしたし、部下に無理難題を要求することもあったので確かにやりにくい時代でした。ただし、いい意味でも悪い意味でも彼は球団に一定の“規律”を作っていた。それを“恐怖政治”と呼ぶ人もいましたが、今の巨人と親会社の読売は、そうした清武路線を全否定し、球団全体にソフト路線を推し進めるが余り、そのツケによって選手やスタッフ、職員たちまでもが自由気ままに暴走してしまうという悪循環に陥っている」
巨人と読売首脳部にとっては許し難い“裏切り者”だが、手腕に強引さはあったにせよ、FA選手獲得ばかりに頼る自転車操業を繰り返す球団の編成方針に強い危機感を感じて「育成制度」導入に尽力し、若手の底上げによってチーム強化に成功するなど評価されるべき点も少なくない。コンプライアンス遵守にも、他球団に先駆けていち早く取り組み、選手や球団職員に至るまで講習・研修への参加を義務付けた。何かと言えば「コンプライアンス」が口ぐせで、主力選手らに「清武のオッサンはウザい」と言わしめた。功罪言われるなか、少なくとも「コンプライアンス遵守」という点では、「清武効果」は評価されてよい。
「ちなみに清武さんは編成責任者として2005年のオフ、当時の主力だった清原和博を東京都内のホテルに呼び出し、戦力外を通告した。清原がチームの規律を守らず、低迷の元凶となっていたことを誰もが感じていたが、当時絶大な人気を誇る上にコワモテのイメージも強かった清原に直接『来季は不要』と伝えるのは、球団首脳でさえ二の足を踏んでいた。それを清武さんは率先して引き受けた。以来、“あの清原のクビを切った男”ということで、選手たちから『あの人に逆らえば大変なことになる』と言われるようになった」(同)
二頭化の弊害も
引退後に覚せい剤取締法違反容疑で逮捕されることになる清原氏を早々に切り捨てたことで「先見の明」も喧伝され、清武氏は球団内での地位を築き上げていった。その磐石な体制の下で敷かれた恐怖政治によって保たれていた紳士球団の秩序は、清武氏失脚とともにタガが外れ、ダッチロールを繰り返している――。前出の古参関係者以外にも、内部の人間からそういう声が少なくない。
「清武さんに反旗を翻されたナベツネさんも今年で92歳。最高権力者の形は維持していても威光は翳り、影響力も徐々に薄れてきていることは否定できない。ナベツネさんに代わって読売新聞グループ本社代表取締役社長の山口(寿一氏)さんに権限が移行しつつあるが、その二頭化も、傘下の巨人全体に悪影響を及ぼしている。今季で3年契約が切れる高橋由伸監督の来季去就について、ナベツネさんが『今季優勝できなくても続投』との方向性を示している一方、山口さんには『V逸ならば新監督を起用するべき』という意思が見え隠れし、両者の微妙なズレが指摘される。だからこそ、チームの方向性がいまひとつ定まらず、編成面を含めて補強もうまくいかない。こうした上層部のまとまりのなさも選手たちの緊張感をそぎ、醜聞や不祥事を頻発させる要因にもなっている」
その山口氏は18日、バトンを受け継ぐ形で巨人の新オーナーに就任することが球団側から発表された。今後ますます読売新聞グループ本社と巨人の間で「山口体制」の強化が図られるものと見られるが、未だ絶大な権力を握る渡辺氏との意見調整がスムーズにいくかが今後のキーポイントとなりそうだ。
2015年以来、巨人はリーグ優勝から遠ざかっている。だがそんなことよりも、まずは組織としてベクトルをすべて同じ方向へと正し、一体化を図ることが先決のように思う。さもなくばチームの規律も乱れたまま、今後も「元」紳士球団と揶揄され続けるだけだ。一刻も早い巨人ブランドの回復こそ、常勝軍団の復活につながることを今一度肝に銘じるべきだろう。
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