エリートが俗物教祖に心服 「麻原彰晃」の洗脳技巧

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三大欲求の遮断

 この謎を解く鍵は、「アルタード・ステイツ・オブ・コンシャスネス」(ASC)という言葉にある。日本語では「変性意識体験」と訳されるこれは、人々が幻覚などを体験している状態、あるいは、意識が混濁して、論理的な判断ができない状態を表す。そして、人をある一定の条件の元に追い込めば、簡単にその人をして、ASCの状態に到達させることが出来るのだ。

『変性意識状態(ASC)に関する研究』の著書がある、立命館大学の齋藤稔正名誉教授は言う。

「最も簡単な方法は、人を身体的に追い詰めること。食事や運動を制限したり睡眠を遮断するなどして、身体を疲れ切った状態にさせ、自分自身で物事を冷静に判断できない状態にさせるのです。こうした“暗示”にかかりやすい状況で何かを吹き込めば、誰の言うことにでも操られやすくなる」

 精神科医の片田珠美氏も言うのだ。

「『感覚遮断』も有効です。オウムは、信者を個室に閉じ込めて、アイマスクと耳栓をつけて瞑想させていたそうですが、そのような状態に置かれると、頭の中に自らの過去の映像やイメージが映ることがあり、それを幻覚と認識してしまうのです。更には、性欲の制限。食欲、睡眠欲と共に、人間の三大欲求を遮断すれば、幻覚が助長される。あるいは、睡眠を極端に減らし、意識を低下させて頭が混乱する『せん妄』状態を作り、そこへ麻原の声を録音したテープを流したりすれば、脳は幻覚と共にその内容を受け入れてしまうのです」

 すなわち、幻覚は超能力でも神秘体験でもない、科学的に解釈可能な現象だ。麻原は信者をこのASCに到達させる術を会得していただけなのである。

 実は、こうした現象は、禅や真言密教など、他の宗教・宗派でも修行の過程で日常的に起きるものだ。しかし、彼らはこれを警戒し、修行僧の段階によってハードルを設けるのに対し、

「オウムでは、そうした手続きを無視し、知識や準備もない信者を、すぐに身体的、精神的に追い詰めて麻原への霊的従属に至らしめてきた」(前出・藤田氏)

 その極北が「キリストのイニシエーション」である。組織拡大に行き詰まり、焦燥感を募らせた麻原は、信者に暗示をかけるため、幻覚剤のLSDを使ったイニシエーションを開発。こうして超常現象を作り出し、手っ取り早く出家信者を増やそうとしたのである。まさに「劇画宗教」の末路だ。

 それから四半世紀近く、悲劇の記憶は日に日に薄れているのか、後継団体は年々信者を増やしている。今回の執行は、果たして彼らにどのように影響するのか。改めてカルトの恐ろしさに慄然とするのである。

週刊新潮 2018年7月19日号掲載

特集「奈落に落ちた『麻原彰晃』 『劇画宗教』30年の総括」より

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